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まどろみを破ったのは、携帯電話のけたたましい着信音だった。
一度寝返りを打って携帯電話の反対側を向く。それでも着信音は鳴り止まない。
昨日は遅くまでのシフトで疲れている。できることならまだ起きたくはない。昼過ぎまで寝ていたい。なんなら一日寝ていたい。今日は休みだ。
それでも着信音は止まない。
携帯電話は嫌いだ。いつでもどこでも他人との繋がりを断つことができない。SNSなんてもっての外だ。
いつでもどこでも誰かと繋がるなんて想像しただけで鳥肌が立つ。
が、電話を受けたなら出ないわけにはいくまい。
まだ睡眠を欲する頭に鞭を打ち、すっかり絶滅危惧種になってしまったストレートタイプのキーボード搭載端末を手に取った。
知らない番号だった。受話ボタンを押し「はい」と端末の下部の受話部分に声を吹き込んだ。眠そうな声だろう。
「クロード・ピネ様?」
しゃがれた女の声だった。聞き覚えのある声だ。けれど、誰だろう。分からない。
「マンサーン探偵事務所のアンスンです。お時間よろしいでしょうか」
思い出した。
先週ダメ元で面接を受けた探偵事務所の事務の女性だ。ミス・アンスンと呼ばれていた妙齢の女性だ。
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