0人が本棚に入れています
本棚に追加
「お前も食え」
「え~せっかくの夏休みなのにかわいそうだよ~」
「いいから食え」
「う~」
シャクシャクと、爽やかな夏らしい音をさせて男が言う。
「いいか、こう快晴続きだと水不足になる。熱中症で命を落とす人もいる。青空の間引きだって大事な仕事なんだ」
女はそれを渋々と受け取り、青空を一口かじる。
シャクシャク、シャクシャク。
「……青空ってラムネ味なんだね」
「ああ。夏空の下の沢山の青春が詰まってるからな」
シャクシャク、シャクシャク、蝉時雨。
「初恋もこんな味なのかな」
「さあな」
シャクシャク、シャクシャク、にゃあと一声。
「お祭り行きたいな」
「盆までの我慢だ」
「……中学最後の夏休み、やりたいことがいっぱいあったの」
「そうか」
「もっと言うことないの?」
「早く仕事覚えろ」
「む~」
シャクシャク、シャクシャク、夏の風。
シャクシャク、シャクシャク、青空が溶けていく。
最初のコメントを投稿しよう!