X.一方:北女神領、森林

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 なんだ? 何が起こった?  北女神領の一行の中で、一番若いラトヴィッジは木に背中をつき小刻みに震えていた。  一瞬の出来事だった、木に紛れ闇夜から現れた『それ』は上官の脳天を撃ち抜き、先輩の首を切り落とし、姿をまともにとらえることもできないまま、仲間五人と捕虜一人を殺害した。  『それ』は、また木の陰に隠れたが、このまま見逃してくれたりはしないだろう。  ラトヴィッジは銃を強く握り、安全装置を外す。  誰の手先か? 何をされたか? そんなことを考える暇はない。  殺さねば、殺される。  極限の集中状態。  目が、耳が、研ぎ澄まされていく。  だが、手の震えだけは止まってはくれなかった。  カサリ。 「うわぁぁぁぁぁぁ!!」  わずかな木の葉の音に反応して、ラトヴィッジはアサルトライフルを連射した。 「残念ハーズレッ」  真上から落下するように『それ』は現れラトヴィッジを切り裂いた。  ラトヴィッジの首は落ち、四色の迷彩服に赤が足される。  一行を全滅させたことを確信すると、やっと『それ』は立ち止まった。  女性だ。  身長は170cm近くあり、胸や尻は大きくグラマラスで、顔立ちも『美人』と称されるタイプのものなのだろうが、銀のショートカットから覗かせるその表情や仕草はやけに幼くアンバランス。  瞳も人間の持つそれとは少し違い、十字の星を描く独特な輝きを放っている。  服装は、銀のライダースーツのような身体のラインを主張させる作りなのだが、ところどころに流線型をイメージした機部が入っている。  その服には隠す場所などなさそうだが、先ほどまで一行を惨殺していた銃や刃の類は見当たらない。  血で赤く染まった『それ』は月を仰ぐと謎めいた言葉を漏らした。 「ああ、ここにいる人は本当に人じゃないんだ! 嬉しいなぁ!」  彼女の言葉は、月明かり照らされた森にコダマした。
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