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なんだ? 何が起こった?
北女神領の一行の中で、一番若いラトヴィッジは木に背中をつき小刻みに震えていた。
一瞬の出来事だった、木に紛れ闇夜から現れた『それ』は上官の脳天を撃ち抜き、先輩の首を切り落とし、姿をまともにとらえることもできないまま、仲間五人と捕虜一人を殺害した。
『それ』は、また木の陰に隠れたが、このまま見逃してくれたりはしないだろう。
ラトヴィッジは銃を強く握り、安全装置を外す。
誰の手先か? 何をされたか? そんなことを考える暇はない。
殺さねば、殺される。
極限の集中状態。
目が、耳が、研ぎ澄まされていく。
だが、手の震えだけは止まってはくれなかった。
カサリ。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
わずかな木の葉の音に反応して、ラトヴィッジはアサルトライフルを連射した。
「残念ハーズレッ」
真上から落下するように『それ』は現れラトヴィッジを切り裂いた。
ラトヴィッジの首は落ち、四色の迷彩服に赤が足される。
一行を全滅させたことを確信すると、やっと『それ』は立ち止まった。
女性だ。
身長は170cm近くあり、胸や尻は大きくグラマラスで、顔立ちも『美人』と称されるタイプのものなのだろうが、銀のショートカットから覗かせるその表情や仕草はやけに幼くアンバランス。
瞳も人間の持つそれとは少し違い、十字の星を描く独特な輝きを放っている。
服装は、銀のライダースーツのような身体のラインを主張させる作りなのだが、ところどころに流線型をイメージした機部が入っている。
その服には隠す場所などなさそうだが、先ほどまで一行を惨殺していた銃や刃の類は見当たらない。
血で赤く染まった『それ』は月を仰ぐと謎めいた言葉を漏らした。
「ああ、ここにいる人は本当に人じゃないんだ! 嬉しいなぁ!」
彼女の言葉は、月明かり照らされた森にコダマした。
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