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上木美香は日本中に何万人もいる女子高生の中の一人である。
成績は普通よりも少し優秀程度。運動神経は通っていないも同じ。才能や特技に恵まれている様子は見当たらない。
しかし、もし町中で彼女の背中を見かけたならば、男性であれば例外なくその美しさに足を止めてしまうだろう。
百七十センチに届こうかという高身長に、モデル並みにスラリと伸びた肢体。淡雪のように白い柔肌に、腰あたりで綺麗に整った艶のある黒いストレートヘア。
一歩踏み出すたびに麗しい肢体が振られ、風がそよぐたびに日本人形のように優雅な黒髪が揺れる彼女の美貌は想像に難くない。
彼女の美貌に目がくらみ、顔を一目見ようと前に回り込んだ人間は星の数ほどいる。そして、その全員が淡い期待を粉々に打ち砕かれるのだった。
前から見た彼女を象徴するのは麗しい肢体でも長い黒髪でも白い柔肌でもない。顔の大半を支配する大きな黒ぶちの眼鏡である。牛乳ビンの底のように厚い眼鏡は光を捻じ曲げ彼女の瞳を見せてはくれない。
前面から見た彼女は身体全体から根暗な文学少女のオーラを発し、お世辞にも美人とは言い難い。
それが故についたあだ名は『背面美人』
彼女の背面に惚れた男は数知れず、前面に惚れた男はいまだかつて一人もいない。
人生が始まって以来化粧などに金銭を浪費したことはなく、どうやら人よりも単語の量が多そうな彼女の辞書にはお洒落という単語は載っていないようだ。
彼女と同じ風見高校一年B組に所属し、彼女のことを知る生徒はこう言う。
「上木美香……あぁ、あのいつも読書ばっかりしてる背面美人のことね」
読書ばっかりしてる背面美人。彼女を形容するにはこの一言で十分かも知れない。
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