1.落ちてきた神様

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 いつの間にやら教室に入り込んでいた担任教師がテストも近いから勉強に励みなさいなどという取り留めのない話をしているのをなんとなく聞き流しながら美香は窓の外を見つめる。  世の中って不公平だなぁ、と美香は漠然と考えていた。  私は毎日ちゃんと授業を聞いて、ちゃんと勉強してるのにどうして成績があんまりよくないんだろう。  運動なんかも全然できないし、恋人もいないし、目も悪いし……。  努力は嘘をつかない、と昔の偉い人は言ったらしいが美香は努力に欺かれ続けて生きてきた人間の一人だった。  自分はどんなことにおいても人の何倍も努力してやっと一人前。神様に愛されていないことは火を見るよりも明らかだった。  ふぅ、とため息をつく。ため息をつくと幸せが逃げるというが幸せな人間はため息なんかつかないんじゃないかと美香は思う。  ため息が出るくらいに不幸せな私はただでさえ少ない幸せをいたずらに吐き出してしまっているんだろうか。  ホント、世の中って不公平。神様ってイジワル。  仮にこの世に神様という存在がいるとするなら、それはきっとそこらへんにいる人間と何ら変わらない怠惰な存在なんだろう。  だって神様がもっとしっかりしていれば、この世の生きとし生けるものはみんな平等で差別や区別のない世界になっているはずだもん。  そうじゃないってことは神様はひいきとか差別とかをする普通の人間と変わらないんだ。  神様がもっとまじめだったら世界は変わって、きっと私ももう少し成績が上がったり運動ができたりするようになると思うのだけれど……。  「きりーつ」  突然耳に飛び込んできた委員長の声と椅子を引く音で美香は我に帰った。  一度考え事を始めると周りが見えなくなるのは美香の悪い癖だ。いけないいけない、自重しなければ、と美香は独白する。  再び始まる気をつけ、礼。そしてありがとうございましたの大合唱。  クラスの皆が家路についたり示し合わせて町中に遊びに繰り出したりするのを横目で見ながら美香は一人、図書室へと向かった。
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