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「……」
静かな部屋の中で考える。今日も、ひとり、だ。
自分は独り暮らしだけれど、同じ建物の中では他にも誰かが生活しているはずなのに、最近の防音設備向上のせいか物音一つしない。
別に友達がいないことも無い。無料通話アプリとか月額音声通信などの普及で、それなりに話すことも多い。SNSを開けば誰かしらは常駐している。物理的にも遊びに行こうと約束すれば会える人間はいた。
もっとも物理的に会える人間とは、近ごろ予定が合えばと、口約束だけが積み重なっている。
ネット上の付き合いだけならもっといた。だけど会うことはそうそう無い。
仕事以外布団の中で、SNSを眺めるだけの生活。もうどれくらいだろうか。
ご飯は食べた。仕事は在宅だ。恋人はいない。……別れたから。一箇月前。
“何で……”
「……」
愕然とした顔を、多分この先も忘れられないだろう。
何で、と問われれば、不毛だと思ったからだ。生産性の無い関係に、未来が重く圧し掛かった。
元を正せば、自分の気持ちに相手が寄り添ってくれた関係だった。莫迦だった、と自覚していた。付き合っている間もずっと。
あのとき洩らさなければ、彼は自分と付き合ったりしなかっただろう。
やさしい彼は、自分を慮ってくれたのだ。
「……っ」
布団に頭まで、潜る。無音の空間で、衣擦れと自分の息遣いだけが耳に付いた。
真面目な彼は、きっと散々悩んだに違いない。表立ってでなくとも、避けられていたと思われる期間が在った。それでも、選んでくれたことがうれしかった。
そして、苦しかった。
いつか、死ぬと思った。
彼のやさしさか、付き合わせている罪悪感か、将来の不安が、自分を殺すだろうと。
だから、選んだ。
ひとりで静寂に埋もれることを。
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