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「父さん」 静かな声だった。 「最後だと思って聞いてほしいんだ」 小さく聞こえてくる、通話機械の向こうの怒鳴り声。 白の口角が心なしか上がる。 「俺、日本に来てよかった」 「いろんな人と知り合った」 「いろんな経験も、した」 「いやな人間にも、おもしろい人間にも出逢った」 「しょうもない奴もいたけど」 「優しい人にもたくさん出逢って」 「父さんと母さんと潤くんと一緒に行った動物園にも、連れて行ってもらった」 「ずっとずっと、あの楽しかった場所に行ってみたかった」 「どこだったかうろ覚えだったから、一生行けない場所だと思ってたけど」 「楽しかった」 「楽しかったんだ」 「母さんがうまれて、生きた国で」 白は小さな声で、穏やかにしゃべっている。相手はいまだに怒鳴り続けているというのに。 「父さんには感謝してる」 ほんとだよ、と笑った。 「母さんと俺たちを愛してくれて、ありがとう」
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