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ぱち、と瀬尾と白の視線が合う。
「なんだ瀬尾さん、来てたの」
ごく軽い調子で、白が言った。
「え」
なにそのさらっとした感じは。
「ごめんね、言うの忘れちゃってて。俺らさ、今日帰るんだ」
明るく、歯切れ良い白の口調。
「いろいろお世話になって、挨拶もできなくて申し訳なかったってお母さんに伝えて」
ああそうだ、と目を細めて笑い、
「ついでに悠希とお父さんにも。ついででいいから、そっちは。めんどくさかったら言わなくてもいいし」
潤が手にしたままだった携帯端末が震え、画面に目をやった彼が、
「透さんからだ」
つぶやいた。
「あ、そうだ。さっき俺透さんと話した。潤くんが到着する頃にもう一回連絡くれるって言ってたからそれじゃない?」
あくまで明るい、白。
何か言いたそうな表情のままの潤は、手の中で震え続ける端末を耳にあてて話はじめる。
「ああ…透さん、こっちは大丈夫。うん…ありがとうね」
ふと、白がまっすぐに瀬尾を見つめているのに気づく。
琥珀色の瞳が一瞬揺れたけれど、見間違いだったかと思うほどにすぐにその影は消えて、
「瀬尾さん」
にこりと笑う。
以前の瀬尾なら騙されたかもしれない。
けれど、今ならわかる。
それは、作り笑顔だ。
白の唇が、空虚な、心にもない言葉を紡ぎ出す前に
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