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「なんで?お前から言っておいてよ」
「いいから出なよ。ほら、待ってるから」
「なんで」
「母ちゃんだって、お前が黙って帰っちゃったら悲しがるからだ」
白が、ぐっ、と言葉に詰まる。
端末を受け取り、一度きゅっと唇を噛み。
「…お母さん?」
小さな声で、話しかけた。
「この間はごちそうさまでした」
言葉と一緒に頭も下げているのを見て、思わず瀬尾の口もとがゆるむ。
「うん…今?ええとね…空港なんだ。うん。成田。そうじゃなくてね。うーん」
ソファに座り直して姿勢を正し、
「俺さ、もともとニューヨーク住んでるって言ったでしょ?今日ね、帰るんだ」
「ごめんね、言わなくて」
「うん」
「急な話で」
「そうじゃないよ。なんかあったわけじゃなくて、もともと帰るつもりではいたんだ」
「うん」
「そうだね」
「うん」
「大丈夫、潤くんが一緒」
「そう」
「あー…」
ちらっと瀬尾のほうを見て、
「潤くんが連れ出したみたい」
くすりと笑う。
「お別れをね…しに連れてきてくれて…」
目をそらして小さく笑った白の横顔に、瀬尾の胸がまたちくりと痛んだ。
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