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「ありがとう、お母さん」
白の声が、やわらかい。
細められた目もとがうっすら赤かった。
それでも、再度の訪問の約束だけは口にしなかったことに、嫌でも瀬尾は気づかされる。
「お母さん、お前に気をつけて帰ってこいって言ってた」
白が端末を返してくる。
それをポケットにしまい、ゆっくりと瀬尾が立ち上がる。
「反則だろ」
白が目尻を赤くしながら瀬尾を見上げ、にやりと笑った。
「ここでお母さん出してくんのはさ」
「だっておまえのほうが先に反則したんじゃん」
「してねえよ」
「直接、本人の口から聞きたい事があるんだ」
目線がまっすぐに合うように、座っている白の正面に膝をつく。
「ちょっと、なんだよ」
戸惑ったような表情の白の、両膝に手をかけてがばっと開かせる。
「わっ」
その間に体を入れて、
「ちょ、なんなんだってば」
白の体を閉じこめるように、ソファの背もたれに両手をつく。
「近い近い近い!」
思いっきり体をひいてソファに背を押しつける白に、瀬尾も顔を真っ赤にして言った。
「だってお前、逃げるじゃん」
俺だって死ぬほど恥ずかしいんだ。
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