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金がほしい。 切実にそう思っていた瀬尾は、バイト情報誌で見た時給額にひかれて、ろくに仕事内容も確かめもせずにそのアルバイトに応募した。 『急募!映像関係アシスタント。日払い、週払いOK。高時給。』 うまい話にゃ裏がある。 身を以て知ったのは、瀬尾雅之25歳の秋だった。 美容師になろうと専門学校を出て、念願叶って東京の某有名ヘアサロンに見習いで入れたのにケガして入院したりして。 いったん実家に戻ったもののやっぱりいつかはまた仕事を始めたくて。 まずは、なけなしの貯金を入院で使い果たしてしまったため、再度一人暮らしをするためにはまとまったお金が必要だ。 なのに何故俺はここにいるのだろう…。 そんな疑問を持つヒマもないぐらい、瀬尾はこき使われていた。 照明の角度が違う。 セットのあれが足りないこれが足りないこんなものいらないなんでここにあるんだすぐどかせろばかやろう。 ケーブル持ってこい。 照明板もうちょっと傾けてみて。 手袋どこだよなんで軍手ないんだよビニール手袋でなにすんだばかやろう。 なんで弁当と飲み物ないんだよ買ってこいよばかやろう。 アルバイト初日、指定された場所は何故かマンションの一室で、あれ?撮影ってスタジオとかでやるんじゃないの?と思っていると、 「ああ、お前バイト?今日から来るヒト?」 と、やけに忙しそうにエレベーターから走り出てきた男に声を掛けられた。 「はい、瀬尾雅之と言いま」 「入って入って。もうすぐはじめるから」 「ええ、あ、ああ、はい」 中に入ると、生活用品こそないものの、やっぱりそこは普通のワンルームマンションで。 部屋の左半分にベッドとテーブルがあるのは普通なんだけど、右半分はカメラと照明とあとなんだかわからない機械類がある。 狭い部屋に、大の男が5、6人ひしめいている。 これは、まさか…! 別に察しの良いわけでもない瀬尾だけど、それでも見ればわかるものもある。 「AV…?」 思わずつぶやいた声に、さっきの男が、 「そうだよ。だから早く用意して」 「え?なにを」 「セッティングセッティング」 「でも何したら」 「みんなの言う事きいて、指示されたことやればOK」 そんなわけで、理不尽なあれこれを言いつけられて右往左往しているわけだが。
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