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「ほんとにあなたって人は…」 苦笑した高宮が、グラスを手にとる。 「たちが悪いよ」 「だから、なんで?」 「…もう、忘れてよ」 「何を?」 「だから」 「忘れないよ?」 「大矢さん」 「だって、わざわざそう言うってことは透だって忘れてないんでしょ?」 「そりゃそうだよ」 「なんで」 「忘れようにも、忘れられな…」 「でしょ?」 しまった、と高宮が目を閉じる。 「俺ね、綺麗なものは大好きだ」 どこかうっとりした口調で大矢が言う。 「かずの目。透の唇。ああ、潤の顔も。それから、瀬尾ちゃん」 「瀬尾?」 「そう、瀬尾ちゃんは心がすっごい綺麗」 「ただのAVの撮影スタッフなのに?」 「うん」 「えらく気に入ってるんだね」 「言ったじゃん。綺麗なものは大好きだって」 「…」 「だから、透」 「え?」 大矢が高宮に向かって両腕を広げている。 「なに?」 「おいで」 「おいで、って」 「慰めてあげるよ」 「…大矢さん」 「かずがケガしたのも、自分がよく注意してなかったからだって落ち込んでるんだろ?」 「…」 「そのうえ、かずの事、ひっぱたいちゃったんだろ?」 「なんで知って…」 「かずが言ってた。透さんにすまないことさせちゃった、って」 「…」 「だから、ほら」 にっこり笑う。 「おいで」 苦笑を浮かべる高宮。 「俺、透にだったら抱いても抱かれてもいいんだよ?」 「あなたはまたそういう事を…」 「おいで、ったら」 ぐい、と高宮のネクタイを大矢が引く。 「ほんと、昔も今もあなた、悪魔みたいな人だね」 「褒めんなよ」 「褒めてません」 「褒め言葉だよ、俺には」 まったくいつでもこの人にはかなわない。 高宮は苦笑いを浮かべながら、するりとネクタイをはずした。 大矢の笑みが、深くなる。
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