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最寄りのコンビニは都内の住宅地にしては少し遠くて、徒歩で15分ぐらいかかった。
「いい天気だね」
「…」
「今日はあったかいね」
「…」
「あ、ネコ」
「…」
おねがいしゃべって。
瀬尾の心の声は切実だった。
病院に一度お見舞いに行ったときは、白はずっと眠っていて話はできなかった。
かわりに帰り際におーちゃんと少しお茶して帰ったのだが、そのときも事件の話をしていたので、あんまり白についてはわからなかった。
「なんでやめなかった」
「え?」
唐突な白の言葉に、一瞬反応が遅れた。
「あんなことあって、仕事続けるの、お母さん反対しなかったのか?」
「あ…ああ、そうだね。少し驚かれて、少し怒られたけど」
ほんとはすんごい驚かれて、すんごい怒られた。
AVの仕事をしていたことを怒られたんじゃなくて、こんな危ないことになりかねないなら最初から事情を話しておけと怒られたのだ。
いや、俺のせいじゃねえし、俺、巻き込まれただけだし、と思ったけど、泣きそうな顔していた母親に言えなくて、ごめんなさいと頭を下げた。
たぶん、刃物が絡んだ事件だったから、母親も冷静ではいられなかったんだろう。
その気持ちは、瀬尾にも痛いほどにわかったから。
「やめるつもりはないの?」
母親に聞かれて、
「うん」
と答えた。
引っ越し費用を貯めるには、やっぱり時給のいいバイトをしたかったし、白とあれきりになるのもなんとなく嫌だった。
「…お母さん、怒ってたか」
「うん、でもまあいつものことだからさ。どんだけすっげえ怒ってても、次の日の朝飯んときは笑ってる」
「そっか」
あの事件の翌日はさすがに瀬尾も母親も家に帰ってから仮眠を取ったが、瀬尾が起きたときには母親は既に起きていて、食事を作ってくれてあった。
いつもより少し豪勢で、瀬尾の好きなものばかりだった。
それから母親は菓子折を持って、警察を呼んでくれた近所のおばちゃんちにお礼に行ったのだ。
「あんたの母親らしい」
黙って聞いていた白が、少し笑ってそう言った。
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