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「俺ら、事情があってそれぞれに母親がいるんだ。かずの母親はもういないけど、俺の母親は心の弱い人で、いつでも俺が取り上げられてしまうのを恐れている」
内容的に意味のわからない部分があったけれど、とりあえず潤に言いたいだけ言わせようと瀬尾はそのまま黙って聞いていた。
「俺がかずと一緒にいるだけで、あのひとは心のバランスを崩すようになってしまったから、俺らは人目のあるところに二人で出るわけにはいかなくなってしまった」
『どっちにしろ、俺らは一緒にいるわけにはいかないんですよ』
いつか、撮影現場で聞いた潤の言葉が蘇る。
「仕事だと嘘をついてかずに会う。でも、家に帰れば母親は俺に今日の仕事はどんなだったかを根掘り葉掘り聞こうとする。俺はその日は嘘をつかなくちゃいけなくなる」
苦しそうな声。
「俺の仕事は人の目に触れる事も多い。俺が説明した仕事の成果を、母親は必ず知ろうとする」
「そういえば潤て何の仕事してるの?」
「モデル」
「え」
「一般には流通してない、ジュエリーとか海外向けのものが今のところ多い」
「うわぁ…そうなんだ。凄いね」
「母親も大事だから、嘘はつきたくないのに」
寝返りをうって、潤が瀬尾に背中を向けた。
「でも、俺はかずが大事で。あいつが苦しんでいるのは、たまらないんだ」
白が、苦しんでいる?
「苦しんでるって…」
「…」
「何に苦しんでるの?あんな仕事、ほんとはやっぱりしたくないの?」
「自分から好んでAVに出たいヤツなんて、そうそういないだろ」
「でも…」
「それしか手段がなかったんだ…あいつには…」
「手段?」
突然、潤が自分の髪を両手でぐしゃぐしゃに乱した。
「ちくしょう!」
低く、押し殺した声で潤は何かを罵った。
まるで潤は自分自身を罵っているみたいだと、そう瀬尾は思った。
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