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パトカーに追われた盗難車が交差点を歩いていた人たちを跳ね飛ばし、そのうち3人が亡くなり、そこに白の母親も含まれていたのだという。
「信じられなかった。朝、いつもと同じように母親にキスをして家を出てきたのに、その日の夕方にはもう冷たくなって霊安室に横たわってた」
乾きはじめた白の髪が、さらりと流れて落ちる。
「半狂乱になった妹の、その旦那が葬式やいろんなことを手伝ってくれて。呆然としたまま、なにもかもが終わった頃」
透さんから連絡があったんだ、と。
「透さんは俺たちの存在をずっと前から知ってて、俺たちがまだ小さい頃から会いに来てくれた。俺たちが10歳の頃、16歳の透さんがはじめてアメリカまで来てくれたんだ」
嬉しそうに白が口もとをおさえる。瀬尾のスウェットが長すぎて、指先だけが見えているその手で。
「おかしかったよ。俺と潤くんを見て、目を丸くしてた。双子だとしか聞いてなかったみたいで、なんで似てないんだって顔してて」
思い出し笑い。
「それからも半年に1,2回は会いに来てくれた。嬉しかったよ、俺たちも。優しくて綺麗なお兄さんができたみたいで」
年齢的に言えば、高宮さんがお兄さんでも全然おかしくないもんな、と瀬尾は思う。
「母親が亡くなったあとに透さんは電話口で、一度父親…透さんから見たらおじいさんに会いに来てはくれないかと、言ったんだ。葬式に顔を出せなかったお詫びがしたいし、二人の顔も見たいからと」
もう年齢が年齢だから、長時間の飛行機での移動はできないから、申し訳ないがそちらから来てはくれまいかと。
「ちょどその頃潤くんはモデルの仕事を始めたばかりで、はじめての大きなオーディションを控えていた。母親の死でショックを受けてはいたけれど、その仕事に挑戦することを母親は応援してくれていたから。だから、ひとまず先に俺だけ日本に来た」
柔らかく笑う、
「父親は優しかったよ。物凄く久しぶりに会う俺に、母親のことをとても残念がってくれて、好きなだけ日本にいてくれたらいいと言ってくれた」
白の、琥珀色の瞳。
「でも、俺は母親に似すぎていたんだ」
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