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「たぶん、本当に母親の事が好きだったんだろうね」 「でも…だからって…」 「うん、だから俺だって頭にきた。絶対帰ってやるって」 「それであの仕事をしたの?」 「あやしいバイトばっかり載ってる情報サイトで見つけた。アングラでゲリラ的でギャラが破格で、親父が気づきにくいからって選んだ」 「定期的に一人で出かけたりする仕事はできなかったから、不定期に一日だけでギャラの出る仕事はありがたかった」 「他に何か手段があったのかもしれないけど、俺は急いでいた。親父が時間のある日は一緒に夕食をとらないといけなかったし、疑いを持たせないためにもそれにつきあうしかなかった」 「親父の家には親父の息のかかった使用人ばかりだったから、まとまって家を空ける事もできなかった」 「…抵抗なかったの?」 「あんまり。ただAVで女性相手だと嫌がる人を無理矢理にどうにかする、っていうシチュエーションが多くてそれはちょっと嫌だなって言ったら、ああいう事になった」 「それでも別に俺は構わなかった。演技だと思えば何とも思わなかったし。向こうの役者や監督の中にはもっと壮絶な経歴の持ち主なんか腐るほどいるし、むしろそれを売りにしてるエキセントリックな人も多い」 「俺がやりたいのは演出だし、日本で何本かのAVに顔が残ったって、問題ない」 父親に対するあてつけもあったのかもしれないと白は思ったけれど、それを言うと瀬尾が悲しそうな顔をするような気がして口にはしなかった。
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