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「笠岡さん?運転手さん?」 「そう。こっちに来てから透さん以外では、笠岡さんしか接する人はほとんどいなかったからね。当然笠岡さんは何も言わなかった。あの人はきちんとした人だから」 瀬尾は、運転席からドアを開けて路上に立ち、白を待っていた初老の男性を思い出す。 穏やかな表情を浮かべていた。 「でも、笠岡さんは俺の母親の事を若い頃に知っていたから、その子供があんな仕事をするのが心配だったんだろうね。潤くんに何も言わないかわりに、俺の仕事が終わるのを待って迎えに行く日と時間、場所を教えた」 「潤、怒った?よね?」 「あー…」 おかしそうに、泣き出しそうに、白の顔が歪む。 「透さんに負けず劣らず、物凄かった。俺、殺されるかと思った」 瀬尾には返す言葉もない。さっきの潤の辛そうな声を思い出す。 「でも、俺も絶対に譲らなかった。どんなことをしても自力で本国に帰りたかった」 親父に対して意地になってたのかもね、と薄く笑う。 「すごかったよ…潤くんてあんなに激しい人間なんだって、改めて思い知ったし…ほんとに申し訳ないと思った」 でもやっぱり譲らなかったんだろ、と瀬尾は思った。そして始めて知る白の意志の強さと、危うさを思う。 「潤くんも透さんも、せめて俺が危ない目に遭わないようにと、たぶんはらわたは煮えくりかえっていたんだろうけど、サポートに回ってくれた」 まあ、ちょっといろいろあったけど、と白は何でもないことのように笑う。
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