108人が本棚に入れています
本棚に追加
/157ページ
「笠岡さん?運転手さん?」
「そう。こっちに来てから透さん以外では、笠岡さんしか接する人はほとんどいなかったからね。当然笠岡さんは何も言わなかった。あの人はきちんとした人だから」
瀬尾は、運転席からドアを開けて路上に立ち、白を待っていた初老の男性を思い出す。
穏やかな表情を浮かべていた。
「でも、笠岡さんは俺の母親の事を若い頃に知っていたから、その子供があんな仕事をするのが心配だったんだろうね。潤くんに何も言わないかわりに、俺の仕事が終わるのを待って迎えに行く日と時間、場所を教えた」
「潤、怒った?よね?」
「あー…」
おかしそうに、泣き出しそうに、白の顔が歪む。
「透さんに負けず劣らず、物凄かった。俺、殺されるかと思った」
瀬尾には返す言葉もない。さっきの潤の辛そうな声を思い出す。
「でも、俺も絶対に譲らなかった。どんなことをしても自力で本国に帰りたかった」
親父に対して意地になってたのかもね、と薄く笑う。
「すごかったよ…潤くんてあんなに激しい人間なんだって、改めて思い知ったし…ほんとに申し訳ないと思った」
でもやっぱり譲らなかったんだろ、と瀬尾は思った。そして始めて知る白の意志の強さと、危うさを思う。
「潤くんも透さんも、せめて俺が危ない目に遭わないようにと、たぶんはらわたは煮えくりかえっていたんだろうけど、サポートに回ってくれた」
まあ、ちょっといろいろあったけど、と白は何でもないことのように笑う。
最初のコメントを投稿しよう!