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「ねえ、瀬尾さん」 布団の上でうつぶせになって、ぺったりと頬をつけていた白が瀬尾を見上げながら口を開く。 「ん?」 「明日、あんた時間ある?」 「バイトないから大丈夫だけど」 「あのさ、俺、行きたいとこあるんだ」 「どこ?」 「この間、テレビで見たんだけど」 幼い頃、一時帰国したときに、珍しく父親も一緒に出かけた事が一度だけあったのだという。 その帰国は当日になっていきなり決まった事で、朝から母親が嬉しそうな顔でバタバタと準備していたことも憶えている。 たぶん、急な父親の休暇にあわせて日本に行ったんだろうと、今ならわかる。 「動物園…俺、行きたい」 「どこの?」 うろ覚えの記憶と、先日テレビで見た映像をあわせて説明する白に、 「ああ、そこなら知ってる。連れてってあげられるよ。そんなに遠くないし」 瀬尾がそう言うと、白は嬉しそうに笑った。 「もう一回、行ってみたかったんだ」 幸福だけを抱きしめていたあの頃の記憶。 その中に柔らかく存在する、あの時間。 「そこに、瀬尾さんと行きたい」 その言葉に込められていた思いを、そのときはまだ瀬尾は知らなかった。 「わかった。明日ね」 布団の上、顔を見合わせて、ふたりして小さく笑いあう。 瀬尾の黒い目のすぐそばに、琥珀色の瞳。
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