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「お礼」 そう言って、すぐに、靴のかかとをとんと地面に戻した。 そのまま瀬尾の方を振り向かずに、すたすたと歩き出す。 呆然としたままの瀬尾は、自分の唇を指先でなぞってみる。 「なにやってんだよ」 ちょっと先で立ち止まり、くるりと振り向いて白が叫んだ。 「助けてもらった。ここに連れてきてもらった。そのお礼だ。ばか」 ばーか、ともう一回言って、 「キスぐらい挨拶だろ。ばか」 ばかばか連発している白に、瀬尾は何も答えられない。 けれど、ちょっとだけ不満そうに口をとがらせた白の、 「俺、あんたにやれるもの、何ももってないから」 そんな言葉に、ようやく我に返る。
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