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『おお…THE 料亭』 明らかに瀬尾のテンションはおかしかった。 それもある意味仕方がない。 だって人生初。 料亭の座敷に座っているんだもの。 撮影と撤収作業が終わり、本日のお給料をありがたくいただき、さて帰るかとマンションの外に出ると。 「遅ぇよ」 理不尽な言葉と一緒に、白がこちらを睨んでいた。白い息を吐きながら、寒そうに肩をすくめて。 「さっさと乗って」 横着に顎で示されたのは、黒塗りの高級車。 「え?なんで?送ってくれんの?」 「黙って乗ればわかるようるせえな」 やだこの子、怖い。 「すみません。先日のお礼を兼ねて、少々お時間いただければと思いますが、よろしいでしょうか」 瀬尾が躊躇していると、運転席から声がかかる。 イケメンの高宮さんだ、と思う間もなく白が助手席に乗り込む。 「どうぞ」 にこやかな高宮の声に、特にこの後用事もなかった瀬尾は『晩ご飯でもおごってくれるのかな。ちょっとラッキー』、ぐらいの気持ちで後部座席に乗り込んだ。 狭い石畳の路地のような道を、高宮は上手に車を走らせた。 そして、着いた先がここ。 神楽坂の、料亭。 絵に描いたような、料亭。 「着きました」 その高宮の言葉と共に、瀬尾は自分が未知の世界に迷い込んだ事を知ったのだ。 小さなあかりが灯されて店名が書かれている、うっかりするとシンプルな表札かと思うような看板しか出ていない店の入り口で、瀬尾は和服の女将のお出迎えを受けた。 「いらっしゃいませ、瀬尾様」 なんで俺の名前。 「いつもありがとうございます、高宮様」 なんだ高宮様の七光りか。 上がるようににこやかに促してくる女将と高宮に背を押されるように、靴を脱いだ。 続いて高宮も靴を脱ぎ、次に上がろうと半分スニーカーを脱ぎかけた白が顔を上げて瀬尾を見上げる。 「早く奥に行けって。後がつかえてんだから」 「あ、ごめん」 「仲がおよろしいことで」 女将のお門違いな言葉に、白がふくれる。 案内された先には、青々とした畳の匂いも清々しい和室。 開け放たれた障子のむこうには、ガラスごしに見える美しくしつらえられた小庭園。 白い砂利と濡れた葉が綺麗なコントラストをうつし出し、所々にともされた灯りが美しい。 「ほんとに料亭だぁ」 思わず漏れた言葉に、白が吹きだした。
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