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09
結局、夕飯は水餃子になった。
山ほど材料を買い込んできた母親が、台所で腕まくりをして笑う。
「プロの水餃子ご馳走してあげる」
「餃子作るの、生まれて初めてだ」と言う白に瀬尾は包み方を教えてやった。
最初はうまくいかなくて、ちょっと皮を破いちゃったり中身がちょろっと出てたり不格好だったりする白の餃子を見ては、
「まあ、最初はしょうがないよ」
と偉そうに言ってたのに、10個も包まないうちに白のほうが断然上手になってしまった。
「器用ねえ」
母親が目を細めていると、白も嬉しそうに照れ笑いを浮かべる。
「ねえ、プロってどういうこと?」
売り物のように綺麗に形の整った餃子をバットに並べながら、白が母親に聞いた。
「え、雅之から聞いてないの?うち、中華料理店だもの」
「そうなの?」
「今度食べに来てね。お店はここから車で5分ぐらいのとこにあるから」
「うん」
信じられないほどの量の餃子が出来上がり、あとは夕食の時間になるまでは自由時間と、母親に瀬尾の部屋に追い立てられた。
「普通に汚い部屋だな」
部屋に入るなり、開口一番白のセリフは無礼だった。
「こんなもんでしょ、男子の部屋なんて」
気にしたふうもない瀬尾。
「今日はゲーム持ってないの?」
珍しいね、と瀬尾が言えば、
「車の中に忘れてきた」
唇をとがらせる。
「じゃあ、うちのやる?」
最近ちょっとやってなかったゲーム機を指さすと、白は嬉しそうに笑った。
「対戦やろ、対戦」
「ええー、だって」
ふと、白の事を何て呼べばいいのかわからない事に気づく。
「ん?」
瀬尾の様子に気づいた白が、
「そういえばさ」
ベッドの上に座って、瀬尾を見上げた。
「あんたさ、あんとき俺の事なんか変な名前で呼ばなかった?」
「え?」
「四郎だかシロだか」
「お」
「俺、犬じゃねえよ」
「あー」
声に出てたのか、と瀬尾は思う。
咄嗟に叫んじゃったんだなぁ、と。
「初めて会った時、白いパーカー着てたじゃん」
白はきょとんとしている。
「え、まさか」
「うん」
「それで、白?」
「うん」
「安易だなー」
言いながら、白が爆笑した。
「だってさ、だってさ、俺、いまだに本名知らないよ?」
「え、そうだっけ?」
「教えてくれてないじゃん」
「へえ…そっか」
にこりと笑って、
「じゃ、白で」
「ええー!なんでー」
「俺が気に入ったから」
白はそう言って、楽しそうに笑った。
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