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「アンタらも明日行くんだろ、浴衣とか買った?」
「えっ?買ってません明日でしたっけ?」
「マジで!女子力ゼロだな、明日は松阪牛の食べ放題だぞ」
確かに美顔に行ったのかもしれないが、目的が食べ物になってる啄に妹が言い返す。
「肉食べに行くなら浴衣なんて着てたら苦しいし、タレで汚れるだけですから」
リーダーと啄が無言になり、『お前らは完全に食い物狙いだな』と思われたに違いないが、厳密に言えば妹と母だ。
「ねぇ瑠里、もしかして浴衣とか着てみたい?」
カマキリの事で頭が一杯で、バーベキューの事をすっかり忘れていたので、手遅れかもしれないが一応聞いてみた。
「浴衣着たら食べる量減りそうだし、まだジンベイの方が楽そう」
「瑠里がそれに雪駄履いたら、男性みたいに違和感ないだろうね……」
祭りで浴衣を着るなんて一度もなかったので、着せてあげたいのもあるしケチらず買っておけば良かったと少し後悔していた。
翌朝、散歩から帰った母に起こされ、職場の周りに出店が少し見えたけどいつ頃行くのと急かされる。
「――今何時?」
「七時回ったトコ」
まだ起きるには少し早いが、二度寝するとそのまま夕方までベッドから動けない気がして、仕方なく部屋を出る事にした。
ドラム缶の目はキラキラしていて、お肉が待ちどうしそうにコーヒーの準備をしてくれている。
「あんまり早く行き過ぎても、お肉ないかもよ?」
「分かってるって」
朝型の母はキビキビと動いてるが、私はただボーッとしてコーヒーを口にしていた。
「イナリとかなり仲良くなってるよね?ずっと後ろついて来てるじゃん」
「でしょ?朝は散歩に行くし家でも一緒だから、最初は薄汚いと思ってたけど、今は可愛くて仕方ないよね~イナリ」
ワンと鳴く事はないが、尻尾を振っている所を見るとイナリも母を気に入ってる様子。
獰猛な山金犬だとは思えないし、未だに子犬の大きさをキープしているのも凄い。
「……朝から声デカイよ」
母の甲高い声で目が覚めてしまった妹は、迷惑そうな顔でリビングに入って来た。
母達はお肉を食べる気満々で、アイスコーヒーは飲んでも朝食は全く食べる気配がないが、私は肉はどうでもいいので小さいパンを食べていた。
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