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「姉さん、今からご馳走が待ってるんだから程々にね」
「うん、でも私はお肉いらないし」
「他にもあるかもしれないでしょ?勿体ないからお腹は空けておく方がいいよ」
いつも食べ過ぎを注意されてるドラム缶に言われるのは納得いかないが、食べかけのパンを皿に戻してしまった。
のんびりと支度を始めたが、母は五分おきに玄関からパン工場の敷地を見ては経過報告をしてくる。
職場まで歩いてすぐの場所にあるので、敷地の一部はこのマンションから見えてしまう。
母は私達がイザリ屋である事は知らず、パン工場の品質管理部で働いていると思っている。
同じマンションに住むリーダーや洋、啄の事も同じ職場の人という認識だ。
三人共デニム姿だが母は買ったカットソーを着て小綺麗さを出しているので、職場の人に声を掛けられる可能性もあるし意識してくれて有難い
私達は変わらずTシャツを着て女子力はゼロだが、それでも貰ったネックレスをつけると何だかテンションが上がる。
少しテレビ時代劇を見せられ、お昼近くになると母が部屋にパタパタと戻って来た。
「なんか賑やかになって来たよ?そろそろお肉出てるかも!」
「そう?じゃあチラッと覗きに行ってみる?」
イナリにリードを付けると、三人プラス一匹でバーベキュー大会が行われている職場へ歩き出した。
守衛の人にお辞儀をすると「真っすぐ歩いた突きあたりでやってる」と教えてもらいそのまま進むが、敷地はトラック等も多数出入りしているのでかなり広い。
普段は品質管理部に直行しているので昼間に歩く事は殆どないが、改めて広さに驚いた。
出店が何軒か並んでいて、その奥にはバーベキュー会場が数箇所に分けられており、まるでお祭りのようだ。
私達が知ってるのは、母の田舎の神社で行われる小さな夏祭りなので、場の雰囲気に飲まれ始めていた。
家族で来たのねと後ろから声をかけられ、木村さんの姿を見ると少しホッとしたが、綺麗な浴衣を着た娘さんと一緒なので挨拶をした。
「いつも母がお世話になってます」
「いえっ、こちらこそお世話になってます……」
ぎこちない会話をした後、娘さんはバーベキュー会場に歩いて行き、私達は木村さんに腕を掴まれた。
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