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「行かなくていいわよ、娘は工場の友達と一緒に回るから。それより浴衣着て来なかったの?」
「ちょっと寄っただけですし、お目当てはお肉なんで」
「そうだ、浴衣が余ってるからお母さんも一緒に皆で着替えよう!」
妹達の視線はお肉に向いていたが、木村さんが腕を引き、芋づる式に三人共品質管理室のロッカーに行く羽目になった。
受付には知らない男性が立っていたがシレッと挨拶をし、母は初めて入る部署にキョロキョロとしている。
「ここはヤケに静かなんだね、まあ今日はバーベキュー大会だしお休みだもんね」
母が耳打ちする気持ちは何となく分かるし、私も第一印象は不気味だと思っていた。
暗い通路を進みロッカー室に入ると、木村さんはゴソゴソと浴衣を取り出し、着替えの手伝いまでしてくれた。
お肉沢山食べるので緩めに帯締めて下さいと、妹は注文を付けながら浴衣に袖を通している。
「今はワンタッチで帯着けれるからそんな構えなくても大丈夫」
いとも簡単に三人共浴衣を着て鏡の前に立つと、お祭り気分の雰囲気が出てなんだか嬉しくなってきた。
母もまんざらでもない感じで、何度も自分の姿を見ている。
私は白地に青の花柄、妹は紺地にピンクと青の花柄、母は黒地に大柄な花があしらわれていて急に華やかになった。
髪をアップに結び直し、みんな軽くメイクまでしてもらうと、木村さんは満足そうに微笑んだ。
皆で楽しもうと木村さんが掛け声を出し、イナリを連れて入ってしまったが、隅でいい子にお座りしている。
母は木村さんと体型も同じだし話も合うようなので、そのまま任せる事にして会場に向かう。
「はぁお腹空くいい匂い~、お肉はこっちだよ」
妹の嗅覚通りに進み、私はかき氷が気になっていたがそのままスル―されてしまった。
何箇所かに別れていたが、田村さんがお肉を焼いている姿を発見すると、他には目もくれず真っすぐに向かって行く。
お疲れ様ですお肉ありますかと、妹は受け皿を自分で取り箸を持って田村さんに質問していた。
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