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災いの刻印
イザリ屋のメンバーというか親族にこんな物を見られたら、ヤバい展開になるのは想像できる。
母は以前パン工場でバイトした事があると言っていたのに、何故その時に刻印が出なかったのか不思議だが、そんな事を聞いてる場合でもない。
まずは人目につかず、母を家へ連れて帰る事に全神経を集中させた。
「くっ…お……重いっ!」
素早く行動したいのに、母が徐々に身体を預けてくるので二人で支えるのが苦しくなっていた。
「ちょっと私、お酒に酔ったみたい」
「女子っぽく言っても体重と年齢は全然可愛くないからね、しっかり歩いてよ!」
目立たないルートを選びつつ、何とか警備室が見える位置まで来ると、母の体温と外の熱気で私達も顔から汗が滴っていた。
「暑いし、重いし…もう置いて帰りたい!」
「瑠里っ、あともう少しだから踏ん張って!」
イナリは時折振り向きながら、少し先を歩いて誘導してくれているように見えた。
母の腕を肩に回し二人で抱えるようにしているが、足が悪い老人よりも遅いスピードだ。
「もうっ、だからダイエットしろって言ってんのに!」
着なれない浴衣に下駄で歩きづらいのも手伝い、全く進めてない気がする。
母の口数が減りグンッと体重がかかると、さすがに動けなくなり木陰を探して休ませる事にした。
「マズイね、私らですら一か所だったけど、手首だけじゃなく色んな場所に出てる」
「田村さん探して来るから、瑠里はここで水分摂らせて見張ってて!」
面倒なので下駄を脱いで手に持つと、ダッシュで来た道を戻るが、地面は熱いし田村さんが何処に居るか分からないのでひたすら走っていた。
同じエリアに居なかったので、屋台を通り越し一筋先の敷地に入り走り続けた。
角を曲がった所で人にぶつかり、倒れると思った瞬間、腕を引っ張られ間一髪で転倒を免れた。
「そんなに急いで何処行くのお嬢さん?」
しっかりと腕を掴んでくれたのは、今会いたくない人物の一人、金刺繍の滋さんだった。
「ちょっと忘れ物しちゃってあの、ぶつかってスミマセンでした!」
一か八かで走り去ろうとしたがやはり一筋縄ではいかず、握られた手に力が入り振り解く事も出来ないばかりか、反対の腕まで掴まれてしまった。
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