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「手錠作戦、鎌封じ!」
その言葉を合図に双棒の針金を外すと、餅の部分がネチャネチャして、影のカマキリが少し怯んだ。
その隙に双棒を刀に変え頭までジャンプして真っ二つに斬り何とか消滅はさせたが、これでは多数いると即アウトなのは分かっていた。
「ちょっと休憩にしましょう」
その声で床に大の字に倒れ込み、何時間もカマキリと闘っていたがようやく緊張の糸が緩んだ。
社長はパンとコーヒーをトレイで運んでくれ床に座ると、今回はまだ荷が重いと早速弱音が出る。
「百合さん、犬螺眼はあれから出ないの?」
「ええ、全く音沙汰なしです」
犬の世界で一度使えただけで音沙汰もなく、とてつもないチカラを発揮できるらしいが、目が金色になり敵からも化け物と言われてしまった。
なのであまり使いたいとも思わないし、十代の女子としては地味に傷ついている。
凱からもらった小瓶も空になっていて、自分で飲んだのかすら思い出す事が出来ない。
どっちにしても刺繍が『無色』の間は両生類や爬虫類メーンに倒す練習をしていたのに、応援に呼ばれたおかげでハードルが急に上がったのだ。
「えぇっ、ワシ犬螺眼見たい!」
「嫌です、化け物扱いされるのはもう御免です」
もしかしてそれ気にしてるのと、妹まで会話に参加しクスクス笑っている。
この二人は普段から私が怒ると『般若』とからかわれ迷惑しているのに、お前らがそれを言うかと内心イラついてくる。
「じゃあ犬螺眼は置いといて、今度バーベキュー大会あるの知ってる?」
社長は機嫌が悪くなるポイントを知っているかのように、上手く話題を逸らしてきた。
「知りません、でもそういうのはパスです」
人見知りだし会社のイベント事に興味もなく、特に妹はその場で断りそうな勢いだった。
「毎年パン工場と合同で、若いもんはコンパみたいでソワソワするんじゃがの?」
「そっちも興味ありません、家で母達とスイカでも食べてる方が楽しいので」
同じ敷地内の表の仕事のパン工場は、面接を受けに来た私達も働く筈だった。
でもパン工場より高額の給料と住まいを手に入れ、母はこの生活がすっかり気に入り、辞めるなんて言うと死ぬまで小言に違いない。
確かに寮という名のマンションは快適で、最新家電に防犯の設備も半端ないし、昭和初期に建てられたボロアパートに住んでいた身にとっては夢の暮らしだ。
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