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「いやいや忘れ物じゃないでしょ、俺に何か言う事なぁい?」
「と、特にないです……家族待たせてるんで……」
「こういうシチュエーションも好きだけど今はお預け、お母さんの所には八雲が行ってるからもう出会ってるよ」
咄嗟に母の方に向かって走ろうとしたが、力が強すぎて身動きがとれなかった。
「安心して。お母さんに危害を加えるつもりはないし、刻印は消すけど、少し調べたいから女性の救護班に診察してもらうだけ」
母にあのお茶飲ませたんですかと睨みながら言うと、滋さんは腕を解放し静かに口を開いた。
「ううん、お母さんが美味しいって色々飲んだ中に偶然混ざっただけで、まさか刻印が出るなんて思いもしなかった」
手招きされて近づくといきなりお姫様抱っこされ、不意打ちすぎて瞬きもせず滋さんを見た。
「大事な身体なのに、熱いアスファルトを裸足で走るなんてヒヤヒヤさせないでよぉ、百合ちゃんの足も薬塗ればすぐ治るから」
無我夢中で走っていたので擦りむいてる事すら忘れていて、ただこの人達に見つからない事だけを考えていたので複雑な心境だ。
「あの、ご迷惑を掛けてスミマセンでした」
母の事なので、いつもの調子で色んな物を勝手に口にしていたかと思うと急に恥かしくなり、お詫びだけ伝えると黙って下を向いていた。
「俺達を悪魔みたいに恐れてるだろうけど、当たってる部分もあるけどさ、イザという時は頼りにもなるから覚えといて」
「はぁ……有難うございます」
滋さんに抱えられたまま、受付を通り何番目かのドアを開けると、田村さんが道具を準備して待っていた。
「あとはお任せしていい?」
田村さんが返事をすると、簡易ベッドにそっと座られてくれ、滋さんは部屋を出て行った。
「あ~ぁ、擦り剥けて血が滲んでますよ?また無茶したんですか」
足に消毒薬を塗りながら、田村さんが呆れた顔をしていて、父が居たらこんな感じかと見つめていたが急にハッと我に返る。
「あの母は?今何処に居るんでしょうか!」
「安心して下さい、木村さんが戻って診察してます」
「勝手にお茶飲んだみたいで、しかもあんなに具合が悪くなるなんてビックリして」
薬を塗り終わると嘘のように元の状態に戻っているので、足の裏を掴んで覗き込んだが、何の異常もない。
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