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それと引き換えに死に直面する危険は伴うが、この生活に慣れ始めている自分も怖くなってくる。
基本的に私達家族は他の人との関わりが苦手で、会社ぐるみの集まりも参加したくはない。
社長がたまに誘ってくれるというか、強引に連れて行かれた事はあるがまだ数える程度だ。
バーべキュー大会なんて屋外だし、工場も合同なら大勢人も集まるので休みは家でゆっくりとしたいし、肉を食べるなら家族で焼き肉屋に食べに行く方が母だって喜ぶ。
「家族を呼んでもいいんですよ?準備は私達ベテラン勢と業者が来ますので、お祭り気分も味わえます。お母さんと散歩がてらに参加してみて下さい」
「ウチの家族は人混みは苦手で……」
「ペット可なのでイナリも連れてきてOKですし、因みに使うお肉は上物ばかりです」
肉が苦手な私はピンとこないが、嫌な予感がして隣を見ると完全に誘惑に負けているのは妹の表情で分かる。
母もお肉が大好きなので、恐らく行ってみたいと言い出すだろう。
「たまには浴衣でも着て、夏祭り気分で楽しんではどうですかな?ウチは勿論ですが、パン工場にもイケメンがいるかもしれません」
イザリ屋は赤刺繍がイケメンだと評判高いが、ウチのチームで言わせてもらうと洋以外は『怖メン』と『豚メン』しかいない。
おまけに祭りに浴衣を着ていくような生活環境ではなかったので、一着も持ってないしワザワザその為に買うのも勿体ない。
「私は浴衣もないし肉も興味ないから、今回は勉強でもしとこうかな」
「ちょっと、社長本人の前でそんな言い方なくない?少しは遠慮して『参加しますぅ』とかいうでしょうねっ、瑠里さん」
肉好きの妹を使い今回も強制参加させられそうな予感がしたが、顔には『参加する』と油性マジックで書いてあるように見えていた。
いつもキツネ……いや、社長に誘われて参加するとロクな事がないので断りたいが、私達の弱点をお見通しで上手く誘導されてしまう。
前回大好きなパスタで釣られたし、今回は妹が大好きなお肉攻撃で、仕上げだと言わんばかりに社長は続ける。
「普段食べれないような極上のお肉が出ますし、親孝行のつもりで招待してみてはどうでしょう?場所もここの敷地内で近いですし」
夏バテ気味だしお肉はいいかもねと、やはり瑠里は既にお肉の事しか見えていないようだ。
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