災いの刻印

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「ここは社長でも誰でも、悪い道に逸れると強制的に修正されます。危険ではありますが、普通の人には出来ない事をしているのも事実です」 「前に犬の世界で無抵抗で殺された人を見ました。人っていうか犬人間ですけど。でもその時に、この仕事の意味は何となく分かった気がします」 「百合さん、本当ならアナタ達姉妹には刺繍のランクを上げてもらい、複数つけて欲しい位なんです。でもまだそこまでは嫌…でしょうね」 自信もないし、経験が少ない分スルスルと登るのではなく、ゆっくりと進んで行きたい。 将来的には田村さんに、もっとついて習った方がいいのも分かるけど、まだこのままでいたい気持ちもある。 「まぁ年頃の女性ですし、プライベートも充実させたいですよね。今回は青刺繍の応援に入ってもらって申し訳ないと思ってます」 「確かに荷が重いんですけど…田村さんがいるので頑張ります」 ポンと頭に手を置いてくれた田村さんは、次の瞬間動きが止まった。 「視線を……感じますね」 「あぁ、ドアのガラス部分から覗いてるキツネの事ですか?」 「――プッ!」 田村さんもそう思っているのか吹き出していて、静かにドアが開くと、社長は膨れた顔をして部屋に入って来た。 「何かズルイよね~、田村には可愛い百合ちゃんが登場してさぁ、ワシには般若しか出てこん」 「普段の行いと態度を確認したら分かるだろ」 冷ややかな視線でそう言うと、社長はニコッと微笑んでから仕事モードの表情になる。 「一つ聞いておきたい事を忘れてましてね、瑠里さんには帰りに聞きました」 田村さんが席を外そうとしたが、社長は肩を掴み隣に座った。 「先程言いましたが、お母さんから八つの刻印が出てイザリ屋に災いをもたらす印もありました。単品なら問題ありませんがね」 今はパン工場の社長というより九十九代目の顔になってるので、思わず背筋をきちんと伸ばした。 「その血を引き継ぐ者、つまり百合さんか瑠里さんがその刻印通りになり、もし瑠里さんが命を狙って来たとしたら、アナタはどうしますか?」 瑠里が私を殺すなんて考えた事もないし、急に聞かれても困るが、答えは決まっていた。
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