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「バーベキュー大会は毎回若い者はコンパ気分で、イザリ屋……いや、品質管理部と言えばイケメン揃いだし、ときめく予感しない?」
「…………」
「えっ、リアクション薄っ!」
せっかくノリノリで拳を上げながら盛り上がっている社長は腕を下げ、こちらは冷ややかな視線を送っていた。
貧乏一家に恋愛には無縁だし、釣られると言えば豪華な食事位で、その辺の反応は分かりやすく出るので社長は残念そうに溜め息をついた。
「若いのにさノリ悪いよね、夏だよ?浴衣だよ?恋の季節だよ?もっとキャピキャピして行こうよ」
「今時の若者と生活環境違うので、では失礼いたします」
妹は立ち上がると社長を置いたまま部屋を出て行き、いつものようにシャワーを浴び受付に荷物を返しに行く。
「お疲れ、社長からバーベキューの話聞いた?若い子は皆浮かれてるけど、我がイザリ屋のクイーン達も彼氏が出来るかもね」
社長だけでなく木村さんまでそんな事を言い出す始末で、そんなにバーベキューでカップルが出来るのかと不思議に思いながら、帰り道に妹に聞いてみた。
「バーベキューに行くお目当ては肉だよね?」
「当たり前だよ、会社のイベントは面倒だけど休みの日で外は暑いのにワザワザ出るのは『ゲットザお肉』と決まってる」
力説するのを見ると、呆れるのと同時に何となくホッとしていた。
私は十八で妹は十六歳なので、普通なら恋を意識する年齢かもしれないが、貧乏暮らしが長かったので内心今のこの生活を満喫したい。
イザリ屋に務めだして給料や待遇は最高だし、この状態を家族で思い切り楽しみたいというのもある。
恋がどうとかで頭を使いたくないし、妹がそんな事で悩んでる姿とかもぶっちゃけ想像できない。
妹にまだ彼氏は早いとか父親的な気持ちが入るのは、両親が離婚しているのもありそうだ。
「でもそんな事より、その後の青刺繍のヘルプで死なない方法考えた方が良さそうだよ」
「あっ、忘れてた」
休みにトレーニングをしているのは応援に入る為なのに、練習の時点で苦戦している有様だ。
バーベキューなんてと思っていたつもりだが、なんやかんやでちょっと浮かれていたのかもしれない。
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