(一)

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 男たちが全員引き上げ、戯れた熱気が治まる頃、大路は囲炉裏端にどかりとあぐらをかいて笑った。 「あいつら、あの人形を襲ったそうやないか」  『人形』とは蘇芳のことであろう。橡は黙っていた。 「なんで止めた? あいつら怒っとったぞ。魂込めに邪魔されたってな。魂込めは村の女だけやない、男まで独り占めかってな」  口調は笑っているが、目は笑っていない。鋭い大路の目が、抉るように橡の表情を窺う。 「橡。ワッシャ聞いとるんじゃ。なぜ止めた」 「……蘇芳は俺がやると決めた。それを横から手出しされるのは我慢ならない」 「ホンマか。ホンマにそれだけか」  それ以上は答えなかった。大路は酒臭い息の中にも、どこか冷静さをちらつかせながら橡を睨んでいたが、やがてふんと鼻で笑った。 「まあええわ。あいつらがあの人形を犯してくれれば、お前の手間が省けると思ったんやけどな」 「……本気で思っているのか。蘇芳の貞操を穢せば、人形を作らなくなるなどと」 「おうよ」  橡の言葉に、鼻息荒く大路が迫る。 「あのイカれた母ちゃんはな、本物の人形師は貞潔であるべきだと本気で思い込んどる。男女の交合、情欲は汚らわしいもので、崇高な人形を作るためにはそれらを一切排除せなならんと。そのうち仙人みたいに飯も食わせなくなるかもな? バカバカしい、今時坊さんだって女を抱いてるっちゅうのに」  そう言うと、酒臭い息ごと、大路はぶはっと吹き出した。 「やしぃ見てみぃ、あの人形を。女でもそうそうおらんぞ、あんななまっちろいのは。ホンマもんの娘っこより色香があるときてる。村の男衆は本気であの人形を手込めにしたがっとる、やらせりゃあ話は早いんやが」  がなる大路のけたたましさをよそに、橡はぼんやりと蘇芳の白い身体を思い出していた。  荒くれた男どもに押さえこまれていた蘇芳。細身の、たおやかとも形容できるあの姿は、確かに村の男衆にとって、激しい情欲の対象となるには十分だ。 「──」  ふと、自分の腹の底までがかすかに疼いていることに気付いた。そんな橡に顔を寄せ、酒臭い声で大路がささやく。 「やが、お前がやる言うたからな。やしぃワッシャはお前に任せたんじゃ。ええな、お前はあの人形を犯せ。力づくでもなんでも、あいつがろくな人形を作れなくなればそれでええ。骨抜きにせえ。ああ? 魂込めビト様」 「……」
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