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──やっと出会えた。あなたは運命の人だ──
殿方にこう言われて心の動かない女がいるかしら。この瞬間から、私が薊様に心を奪われたとしても不思議はないでしょう。ほら、今でも身体中がふわふわと浮いているようよ。
婚礼後は彼の実家がある東京に行くの。ああ、東京。こんなつまらない閉じ込められたような村ではないかの地には、どんなきらびやかな毎日が待っているのかしら。
きっとすべてがからくり仕掛けのように、がちゃがちゃして、きらきらして、わくわくざわざわしているのでしょうね。
あら。いけない、薊様がお話しているというのに。私ったら自分のことばかり考えてしまったわ。
今日は村を囲む山に二人で登ったの。山全体は低くなだらかで、常緑の木々が絶えず梢を鳴らしているわ。けれど山の北東の方角に、一箇所だけ岬の突端のように岩山が突き出た場所があってね。薊様ったら、ここに行きたいと言い出すのですもの。私、本当はこんな場所来たくはなかった。
山の緑の中から見えるこの突端は、村を上から睥睨しているようで、ちょっと怖いのよ。村の人はほとんど近付かないわ。
それに、ここには朽ちた祠が一つぽつんと建っているだけなの。ほかには何もない不気味な場所。でもどうやら、薊様はこの祠こそが目当てだったのね。祖父や村の古老連から、祠があの唄に関係があると聞いたみたい。
その祠を前に、目をきらきらと輝かせて薊様が説明してくださっているわ。正直、私にとっては、あの唄の由来がどうであろうと知ったことではないのだけれど……
ああそんなことを思っては駄目ね。将来の旦那様がこんなにも嬉しそうにお話してくださっているのですもの。
あの唄の由来。
あの唄の──
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