(二)

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 意識が痛みとともに甦ってくる。蘇芳は水底からゆるゆると起き上がる感覚を覚えると同時に、鈍い痛みが腹にわだかまっていることを感じた。ここはどこだ。ぼんやりとさ迷わせた視線の先に、月光が映る。  またも腹を孕ませた月が、小窓から自分を見下ろしていた。  とたんに意識が覚醒した。ところが身体を起こそうとした蘇芳を、真上から押さえつける手があった。自分を覗き込む顔を見て、蘇芳は愕然とする。山で襲われた三人だ。  寝かされている板の間の冷たさが、一気に背中に沁み入って来る。  おぼろげに記憶が甦ってきた。そうだ。日が暮れる頃、突然この三人が家に踏み込んできたのだ。驚いてすがる母を蹴散らし、納戸で人形を彫っていた蘇芳を引きずり出した。そのまま当て身を食らわされ、気を失ってしまったのだ。 「何を」  声が震える。男たちのぎらついた目が自分を見下ろす。ぞくりと蘇芳の全身が危険を感知する。  力の限り両手足をばたつかせた。けれどすぐに男たちの荒くれた手に押さえこまれ、まるで抵抗できない。  兄貴分らしき男が、蘇芳に顔を近づけてきた。酒臭さに蘇芳の息が詰まりそうになる。 「まるで白魚やないか。ああ?」 「酒でしめやんとな」  そう言うと、蘇芳の唇の中に何かを注ぎ込んできた。酒だ。鼻をつき、喉を焼く酒に、蘇芳は激しくむせた。顔をそむけようとするが、男の一人が蘇芳の頭を押さえ、もう一人が無理やり口の中に注ぎ込んでくる。  がははと男らが笑う。 「初めてのご開帳やしぃ、人形はんも酒でも飲んでなきゃ恥ずかしくてあかんやろ」  慣れない酒の味と匂いが一気に身体に回る。野卑な男らの声と合わせ、自分を体内から穢していく。  自分の腹の上に跨る男が、着物の前を乱暴に開いた。肌が夜気に晒される。 「たまらん、こりゃたまらんわぁ」  男の固い掌がざらりと蘇芳の胸を撫で回した。酒の効果を嫌悪が煽り、蘇芳は逃れられない吐き気に身をよじった。 「や、め」  今にも吸いつかん勢いで蘇芳の肌を撫で回す男が、へらへらと笑いながら言った。 「しかしワッシャらが真っ先に人形はんの秘仏を拝めるなんて、魂込めビトに感謝せんとな」  魂込めビト。その言葉が、蘇芳を今一度覚醒させた。 「な……?」  驚いた顔をした蘇芳を、自分の真上にいる男がにやりと笑って見下ろした。
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