(二)

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「ホンマはな、このお役目は、あの男が社の大路はんにやれ言われてたんや。やけどいつまで経っても、あの魂込めはあんたを手込めにせぇへん。それでとうとう業を煮やした大路はんから、ワッシャらがこのお役目を仰せつかったっちゅうわけや」  頭上で蘇芳の頭を押さえつけている男が笑った。 「ええのよ。魂込めは堂々と女を抱ける、男くらいワッシャらに回ってきても罰は当たらん」 「村の娘っこより、人形はんのほうがええけどな」  口々に言いながら、男らが蘇芳の身に付けているものを引き剥がしていく。蘇芳は抵抗するのも忘れ、今の言葉を頭の中で繰り返していた。  魂込めビト。橡。  橡が自分に近付いたのは、社大路に命じられ、こうして手込めにすることが目的だったのか……?  そんな。酩酊と混乱が混じる。そこに記憶にある月光が重なり、蘇芳は息もできなくなった。  橡。あなたは私を騙していたのか。 「案外立派やないか」  兄貴分の男が、蘇芳の身体を見て言った。ほかの二人もげらげらと笑う。しかしどの声も今の蘇芳からは遠い。厚い膜を一枚被ったかのように、自分の五感には響かない。  ところが、そんな夢うつつの状態はすぐに打ち破られた。男が蘇芳のものを掴み、そのまま手を荒く上下させたのだ。未知の感覚の中に唐突に放り込まれ、蘇芳は思わず喉を仰け反らせた。  尻の中心が、きゅうぅ、と痛いほどすぼまる。 「反応しちょる。人形はんが気持ちええ言うとるぞ」 「白魚や、見ろこの喉の白いとこぉ」  蘇芳の姿を見ていたほかの二人が、口々に言い合う。その冗談めかした声音は、やがて覆い隠せないほどに熱を帯び始めた。  頭上にいた男が蘇芳の耳たぶを齧り、両の乳首を指先で転がしてきた。あっと意思とは関係なく、蘇芳の口から声が飛び出す。残った一人は恐る恐るというふうに、蘇芳の首筋を撫で、それからずしりと重さを孕んだ自分のものを手に押し付けてきた。  男の先走ったものが、蘇芳の手をぬらりと汚す。音にならない絶叫が、麻痺しかけた意識の中で炸裂した。  嫌だ。こんなのは嫌だ。絶対に嫌だ。橡。橡、助けてくれ。  けれどその名を呼んですぐに、腸まで落ち込みそうな絶望感が蘇芳を叩きのめした。  否。橡は私を騙していた。あの男の笑顔は、言葉は、すべて偽りだったのだ。私を信用させるための、全部、偽り──
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