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「あなたが全身全霊をかけて人形を作る姿を見ることが、今の俺の喜びなのです。すべてなのです。蘇芳様、俺は」
「あなたは何も分かっていないっ」
鋭く遮った蘇芳の言葉に、橡が言葉を呑んだ。そんな彼を睨んだ目から滴が噴き出る。涙なのか、月を照り返した沼の水なのか。
「私はやっと分かった。身体の穢れなど、何ほどのものでもなかったのだ。怖ろしいのは心が曇ることだ。何ものも心の綺麗な部分に留め置くことができなくなるということだ!」
橡の姿が、水の中にいるかのようにゆらゆらと歪んだ。
「やっと分かった。みんな消えろ壊れろ。私は本心ではずっと、そう思って生きてきた!」
裸の胸を自らの指で掻きむしった。そのままへたりと地面に膝をついてしまう。
「つらい。苦しい」
自分がこんなにも酷薄な人間であったとは。こんな心、捨て去りたい。そんな自分に人形など作れない。無意味だ。
「私は、私は、心があることがつらい!」
けれど人形を作ることだけが、自分が今在る理由であり、意味だった。
八方ふさがりの矛盾が蘇芳の息を詰まらせる。蘇芳は小刀を見た。遅過ぎた。もっと早くこうするべきだった。
柄を握り直し、刃を自分の首筋に当てた。お許しください。母上。胸の内で母を呼ぶ。
蘇芳はあなたの期待に副う息子ではありませんでした。不甲斐ない、弱いものでした。
最後の勝手をどうか許してください。蘇芳は、解き放たれたいのです。
月光を宿らせた刃が、冷たく喉に当たっていた。月を呑みます。刃を横に引く。
とたんに、伸びてきた手が蘇芳の手首を掴み上げた。強い力に、刀がぽろりと蘇芳の手から落ちる。
「つるば、」
彼の名を呼ぶ間もなかった。
蘇芳の目の前で、橡が拾った刀を自分の腿に深く突き立てたのだ。
「!」
衝撃に蘇芳の頭が真っ白になる。刀を刺したまま片膝を立てた橡は、柄を震える手で握り締めていた。
「なんということを」
刃は小さいとはいえ、ほぼ全部橡の肉の中に埋まっていた。開いた傷口からどんどん血が溢れ出てくる。
「なんてことを! 早く傷口を塞がなければ」
「いえ。まだ、この傷口は塞げません」
眉間にきついしわを寄せ、橡が喘いだ。
「何を言っているのです? 早く血を止めないと」
「いえ。ここにあなたの災いを封じ込めます」
思いがけない言葉に蘇芳は息を呑んだ。
「……えっ?」
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