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翌日、早朝に蘇芳親子は村を出た。田んぼ仕事を始める人々は、無言のうちに彼らを見送った。その中にはもちろん、大路の姿もあった。
彼らを見る人々の目には、何が宿っていたか。よそ者への侮蔑、畏怖か。
それとも羨望か。
橡はその日から、外に出ることもなく静かに過ごすようになった。蘇芳を待つと心に決めていた。
例え何十日、何年かかろうと。蘇芳、俺はあなたを待つ。
太陽は今日もぎらぎらと照っていた。
雨の気配は遠かった。
蘇芳が領主の城へ経ってから二十日ほどが過ぎた。雨は依然降らず、飲み水にも事欠く様相を呈してきた村は、次第に恐慌の色を濃くしていった。
病が流行り始め、小さい子供たちや年よりからばたばたと倒れていく。日に日に募る不安に、村人たちは険のある目つきを交わし口々に言い合った。
「どうなっとるんじゃ、なぜぇ雨が降らん。魂込めの儀を行ったっちゅうのによ」
「何がいけんのか、大路はん、どうにかぁならんのか」
「このまんまでは全滅や、土地ごと全員干上がっちまう!」
さすがの大路も、騒ぎ出した村の衆をなだめることができなくなっていった。憮然と酒を呷り、弱音を吐く若い衆を殴りつけるしか能がない。
そして酒臭い息をまき散らし、呪詛のように繰り返す。
「あの人形や、あの人形のせいや。よそもんなんぞが作った人形を奉げたから、土地の神様が怒りよった」
大路を囲む若い衆が口々に怒鳴った。
「そうじゃ、あの蘇芳のせいじゃ!」
「蘇芳を連れ戻せ、たたっ殺せ!」
憤懣をすでに村にいない蘇芳にぶつける。不安を伴った憎悪が、村中に満ち始めていた。
すると、酔った大路のそばに、す、と忍び寄る影があった。ノノだった。
「兄さん」
ノノは大路の耳元に囁いた。
「蘇芳だけやないよ……? 雨が降らんのは橡のせいや」
大路は赤くなった顔を妹に振り向けた。
ノノは、ふ、と冷たく笑い、言い放った。
「だって橡は魂込めなんかしてへんもん。橡があの晩抱いたんは──」
どす黒い念が、ずらずらと寄せ集まり、肥大化していく。
出口を求めたそれは、決壊寸前の悪夢と化した。
大地が鳴っている。そう思う間もなかった。
突然家の戸が乱暴に蹴倒された。驚いて顔を上げた橡を、あっという間に村の衆が取り囲む。先頭には大路が立っていた。
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