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橡はたちまち取り押さえられ、後ろ手に縛り上げられた。土間の上に転がされた橡を、大路がぎらぎらとした目でねめつける。
「このろくでなしが」
言うと同時に腹を蹴られた。ぐっと橡の喉が鳴る。
「こともあろうに、あの人形と乳繰り合うとはどういう了見じゃ」
次々と村の衆の怒号が降って来る。
「この日照りはお前のせいじゃ!」
「魂込めビトのくせして、なんちゅうやっちゃ!」
「ワッシャらを殺す気かぁ!」
怒声と同じ勢いで蹴られた。抵抗もできず、朦朧とした橡の頭上から、やがて大路の声が聞こえてきた。
「この日照りは、お前が魂込めの儀をしなかったからよ。こうなったら土地の神様の怒りを鎮めるには、これしかないわ」
低い声音に、ざわりと橡の全身が総毛立つ。大路は倒れ込んだ橡をねめつけながら、言った。
「魂込めのお前を奉げるしかない。人柱や」
人柱。
生き埋め。
「!」
抵抗して暴れ出した橡を、男衆が押さえつけ、動けないようにする。
大路が叫ぶ。
「今さら抵抗しても遅いわ! やしぃワッシャぁあれだけ言ったのに。言うことを聞かんかったお前が悪いっちゅうわけや」
言いながら、大路は橡の家屋の中を見回した。必要最低限の物しかない家の中で、彼の目に留まったものは、明らかに異彩を放っていた。
大路が家に上がり込み、それを手に取る。はっと橡は顔を上げた。
父の死の間際、譲り受けたあの刀だ。
すらりと鞘から抜いた刃の輝きを、大路が舌なめずりをして見る。
「おお。これや。ずっとガキの頃から欲しいと思っとった」
「……触るな! それは我らの」
ぎろりと大路が橡を見下ろし、哄笑した。
「お前は死ぬ! そんなお前にこの刀はまさに宝の持ち腐れなんじゃ! いや、お前らのような間の抜けた一族に、こんな刀はもともといらんかったっちゅうこっちゃ!」
大路の言葉に、橡が歯を剥いて暴れ出した。男衆に乱暴に取り押さえられても、口の端から血を噴き出させながら橡は叫んだ。
「大路……! お前は、否、お前ら社一族は、我ら一族を卑怯な策で陥れこの地に留めただけではない、こうして最期の最期まで辱めるというのか……!」
この言葉に、男衆が訝しげに視線を交わし合った。
「卑怯な策って、なんのこっちゃ」
一人の男が、首をひねりながら言った。
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