(四)

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 さらなる闇。  ああ、私の足に翼が生えていたらいいのに。  蘇芳は息を切らせながら、空を振り仰いだ。小鳥が楽しげに、ちち、ちち、と鳴き、蘇芳の頭上を過ぎていく。  領主の城を出て二日が経っていた。もうすぐ村が見えてくるはず。はやる心を押さえられず、蘇芳の足が自然と速くなる。  案の定、領主は橡の素性に興味を持った。蘇芳の真摯な懇願にも心を打たれたのか、橡を城に呼び寄せることを聞き入れてくれたのだ。  橡。蘇芳は何度も何度も心の中で彼を呼ぶ。  橡、これであなたは自由です。村を出て、私と生きましょう。  山中を歩く足は一向に緩まない。蘇芳には橡のことしか頭になかった。村に近付いていることを感じれば感じるほど、足はますます速まる。  橡。橡。  その時だ。  不意に、騒がしい気配とともに、山中から三つの人影が躍り出た。ぎょっと蘇芳は立ちすくむ。相手は男二人と女一人だった。女の顔を見て、蘇芳は驚いた。ノノだ。  男二人とノノも、蘇芳の姿に驚いた顔をした。が、すぐにノノが甲高く笑い、蘇芳のほうへふらふらと近付いてきた。 「なんだあんた、今頃何しにきたんよ」  蘇芳は思わず眉をひそめた。酒の匂いがする。しかも着物は乱れ、大きい乳房が丸見えになっていた。はだけた裾、上気した肌の感じを見ても、山中でこの三人が何をしていたのか容易に察しがつく。  蘇芳の心中を見抜いたのか、ノノがきつく目をすがめた。 「ああ? 穢いものを見る目で見るんやないよ。あんたも同じやないの。橡の上で、嬉しそうに腰振ってたやないのっ」  そう言うと喉を仰け反らせて笑った。男二人もにやにやと笑い、ノノの素肌に手を這わせる。  ……おかしい。蘇芳は直感した。いくらなんでも、ノノはここまで乱れた女人ではなかった。  とたんに、身体中がざわめき出した。直感が蘇芳に警告する。 「……何があった。ノノ殿」  ところがノノは答えない。ますます甲高く声を張り上げて笑うと、男の一人に組みつき、唇を吸った。男がノノの乳房をもみしだく。もう一方の男もノノを背後から抱きすくめ、自分のそそり立ったものを彼女の腰のあたりに押し付けた。そのあられもない様は、獣同士の戯れに見えた。 「なんもかんも、ねえ!」  やがて男二人に身を任せながら、ノノが叫んだ。蘇芳はますます動けなくなる。  ノノは泣いていた。けたけたと笑いながら、泣いているのだ。
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