(四)

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『──めはなんどのやみをくい  ちいさいつぼみはさびのいろ  なみだにぬれたにんぎょうを  うめてもどしてあめやまぬ──  ふふふ。  さてお立ち合い。  この後、蘇芳はどうなったと思う?  少年のおかげで蘇芳は橡の埋められた場所を探し当てることができた。まだ盛り土の痕跡も新しい地面に身を伏せ、さめざめと泣いた。  ──橡。私もあなたのもとへ参ります。今度生まれてきた時は、二度と離れませぬ。必ずや一生添い遂げましょうぞ──  そう言って蘇芳は木彫用の刀で喉を突き、果てた。村人たちが見つけた時、蘇芳は橡がいる盛り土の上に伏せ、穏やかな顔で死んでいたそうだ。血の涙を流した形相は消え、もとの美しい相貌に戻っていたという。  村人たちは蘇芳の亡骸を村の共同墓所に手厚く葬った。さすがに彼らも、自分たちが非道な行いをしたと気付いたのかな。それとも単に蘇芳の怨念が怖かっただけかな……?  しかし。蘇芳を葬ると同時に、あれほど待ちわびていた雨が降り出したのさ。人々は狂喜乱舞。たちまち、自責や後悔の念などは吹き飛んだ。やっぱり魂込めビトを神に奉げたのがよかったのだと口々に言い合った。  まったく人の心とは、なんと手前勝手にできているのだろうね。  ふふふ。でもね。そうはうまくいかない。  今度は雨が止まなくなってしまったんだ。日に日に強さを増す雨は、せっかく実った稲も全部押し流し、村中を水浸しにした。村人たちは再び顔を青くした。やはり蘇芳や橡の祟りだと言い出す始末だ。  しかもそれだけではない。  なんと蘇芳が作った人形が、夜な夜な泣き叫ぶようになったのだ。どんな雨の轟きにも負けず、あの青い人形の細い泣き声が村人たちの耳に聞こえてくる。  ──つるばみ。つるばみ──  とうとう半ばおかしくなっていたノノが、完全に発狂した。  橡から兄が奪った刀を抱き、神がかったように泡を吹いて叫んだ。  ──蘇芳の身体を橡のもとへ返せ。でなければ我らは全員死に絶える!──  人々はあわてて墓所を掘り返した。ところが、蘇芳の屍骸を掘り返した人々は、驚愕に腰を抜かしてしまった。  何しろ、死んでから何日も経っていたのに、その姿は朽ちもせずに美しい容貌を保ったままだったのだ。人々はますます畏れ慄き、彼の屍骸を橡のもとへと運んだ。
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