(一)

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 冬の厳しさが解け、陽射しに柔らかさが混じり始めた季節だった。男たちは全員が着物の前をはだけ、年中陽に焼けた浅黒い肌を剥き出しにしていた。その威圧的な塊が、さらにじりりと蘇芳を囲む。  ひときわ体格のいい男の手が、蘇芳の腕を取った。強い力に、手の中の兎が落ちそうになる。強い汗の匂いが鼻腔をつく。やめろ、と蘇芳は呻いた。  すると、ふ、と自分を掴む腕の力が緩んだ。はっと顔を上げると、男たちがどこか陶然とした顔で自分を覗き込んでいる。 「ホンマに女みてぇだ」  そう言うが早いが、蘇芳の着物の合わせ目に手を差し入れてきた。ざらりとした熱い掌が自分の胸もとを這う。蘇芳の息が止まりそうになる。  男が叫び声を上げた。 「うひゃあ、やっぱりこりゃ上もんだぁ、村のどの娘っこより手触りがええ」  その声に煽られたのか、残りの二人の男も蘇芳を押さえつけにかかった。もう兎のことなど、男たちの眼中にはないようだった。  着物を帯ごとむしり取られた。土のひんやりとした冷たさを肩のあたりに感じる。下から伸びてきた手に、太腿の内側を撫で上げられる。ざざざ、と音まで聞こえそうな嫌悪感が蘇芳を震わせた。 「やめろっ……!」  その時だ。我先に、と蘇芳の上に馬乗りになっていた男の姿が突然消えた。混乱でぼやけた蘇芳の目に、頭上から降り注ぐ光を浴びた別の男の影がある。 「お前っ」 「魂込め野郎」  男たちが口々に叫ぶ。魂込め。その言葉が蘇芳の耳を打った。魂込めビト。  うろたえた男たちが蘇芳から離れた。現れた男は無言で彼らを見回すと、蘇芳の上から引きずり上げた男の首に腕を回した。 「うひゃあっ」  男が情けない声を上げる。回された腕に必死に爪をたて、足をじたばたと揺らした。 「さっ、触るな、この魂込め野郎があっ」  ひいい、とほかの男たちも後じさる。 「穢れる、穢れるぅ、触るな、触るなぁ」  とたんに、どんと魂込めの男が村の男を突き飛ばした。三人の男は振り返りもせずに山道を逃げて行く。その一部始終を、蘇芳は唖然と見つめていた。  魂込めの男と蘇芳が残った。男の姿は、山の色に決して溶け入らぬ美しい黒一色だった。目も、髪も、着ている着物も、何もかもが滴り落ちそうに黒い。 「怪我をしている」  やがて、ぽつりと男がつぶやいた。地面の上に投げ出されていた仔兎を抱き上げる。
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