旅にでよう

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駅で見つけたパンフを持って、 切符を買って、電車に乗って、 車中で、旅の記事をつぶさに読んで、 遠い世界に思いをはせる。 ゆったりとした今日、安らかな時間。 いまのわたしにぴったりだ。 だから、わたしは旅に出よう。 彼の最初の違和感は、 今年の2月、まだ寒いころ。 帰って来た彼の鞄に見慣れない、 小説が一つ入っていたから。 でも、この本には見覚えがある。 表紙の女性、扇情的な帯 流行りのエッセイ、 彼が読まないジャンルの本だ。 数日のちに、その謎も解けた。 わたしと彼がよく行ったコーヒーショップで窓越しに、 本を手に持つ女性がいる。 ピンクのカバー、上からしおりが顔を出す。 彼の好みの緑色、 彼の好みのフェミニンな服、 彼の好みのウェーブのかかった髪、 そして近づく彼の姿。 それは3月の、まだ寒いころ? あれから4月(よつき)、あっという間だ。 電車で読んでたパンフレット、 それをホームに置き去って、 改札脇のみどりの窓口、 カウンターにそのまま行った。 今日の買い物は、まずここで。 後で、ケースをそろえよう。 最初に買うのは旅のチケット 持っていくのは彼の指だけ、残りは部屋に置いておこう。 だから、わたしは旅に出る。 わたしは、だから旅に出た。
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