13人が本棚に入れています
本棚に追加
(いない……月華がどこにも姿をあらわさない!)
彼女にひと目惚れしてから、はや数日。
ふたたび月華に会えることだけを楽しみに、毎日宴の間に入り浸っていた旺諒であったが、お目あての佳麗はいつまでたってもやってはこなかった。
逸(はや)る気持ちがとうとう抑えきれなくなり、衝動的に月華の住まいである月麗宮を訪れた彼だったが――――。
白亜の美しい宮殿で、さっそく大きな肩すかしをくらった。
「月華様はただいま、実験棟として使っていらっしゃる離れの亭(あずまや)におられます」
若緑の襦裙(じゅくん)をまとった、楚々とした若い女官が、丁寧にそう彼に告げる。
「離れの? ああ、あの隅にある亭か。では、そちらにうかがうとするよ。ありがとう」
実は訪問の約束をしていない旺諒は、深く追求されないうちにと笑顔でごまかし、そそくさと立ち去ろうとした。
けれども、彼の思惑などバレバレだったのだろうか。
彼女が何やら謎めいた笑みを返すと、一言つけたした。
「どうぞ道に迷われませんよう、お気をつけくださいませ」
(道に迷う、だって? 亭はここから目と鼻の先じゃないか)
悪意はなさそうだが、いったいどういう意味なのだろう。
ほんの少しだけ、いやな予感が胸をよぎる。
それでも心を躍らせながら、スキップしたくなる気持ちをおさえて、まっすぐに亭に歩いて向った旺諒だったが……。
最初のコメントを投稿しよう!