天界の宴

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それから、半時ほどがたった後。 (……たどり着けない……! こんな目と鼻の先にあるのに、いつまでたっても亭に着かない!) あいかわらず亭は、すぐそこに佇んでいる。 だが、向う角度を変えようが、走って近づこうとしようが、後ろ向きに歩いてみようが、ちっとも距離は縮まない。 それどころか、気がつけば彼は、見たこともない景色のなかに放りこまれていた。 いつのまにか周囲には霧がたちこめ、おどろおどろしい怪獣でも住んでいそうな雰囲気の、巨大な謎の湖まで出現している。 (ダメだ、このままでは本当に遭難してしまう!) もしやこれらはみな、月華が見せる幻影なのだろうか。 そういえば、と今さらながらに彼は思いだした。 月華はただ見目麗しいだけの龍ではなく、天界に不可侵の結界を張り神具をも創造する、類(たぐい)なき天才でもあったのだと。 「……俺があの亭に近づけないということは、もしかして彼女から歓迎されてないっていうことなのだろうか?」 思わずひとりごとを口にすると、ふいに湖上の霧のなかに、巨大な赤い文字がもわりと浮かびあがってきた。 『正解』 (……なんだ、これ?!) まさか。いや、やはり。先ほどからのこれは彼女のしわざなのか?! (なんだかずいぶんイメージと違う気がするんだが……?) だが旺諒は、そこであっさり諦めてしまうほど、賢くはなかった。 霧のなかの文字に向って、彼が挑むように大声で叫ぶ。 「突然の訪問で怒ってるのか?! でも明日もまた来るからな! 今度はちゃんと予告したぞ!」 この時。言うだけ言って、さっさと踵を返して戻りはじめた彼の目には、次に浮かんできた『来るな』の文字は、映ってなどいなかった。
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