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突然掛けられた声に驚いて、シャーペンの芯が音を立てて折れました。顔をあげると、少し日に焼けた男子生徒が立っています。
「驚かせたかな、ごめん。」
「いえ、大丈夫です。えっと……。」
咄嗟に彼の名前が思い浮かばず、しどろもどろになってしまいました。同じクラスということくらいは、何となく解るのですが。
「あ、浅河です。勉強中邪魔してごめん。」
「あ、そうそう浅河くん。で、どうかしたんですか?」
彼は申し訳なさそうに机の前にしゃがみ込みました。椅子に座って問題集を解いていた私と、同じ視線の高さでこちらを見てきます。
「その問題集、次の時間に借りていいかな?」
「これを、ですか?」
「そう、それ。」
机に広げられた数学の黒い問題集を指して、彼は言いました。他の人に借りればいいのに、どうして私のところに来たのでしょう。
「原田とか榊とか、他のやつみんなもってなくてさ。次必要なんだ、いいかな?」
「いいですよ。でも、これ理系用ですけど。」
浅河くんは文系で、いつも学年トップを争っているという噂を思い出しました。さすがにそれでも、難しいのではと思ってしまいます。
「大丈夫。ありがとう。」
そう言って彼は私の問題集を手に去っていきました。
クラス内にざわざわと怪訝が伝わっていきます。当たり前です、ふだん話しかけることのついぞない人が学年内でも名の知れた人と話していたのですから。
ああ、うっとうしいなあ。ほっといてよ。
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