1 学生スパイがいる世界

10/19
前へ
/243ページ
次へ
裏切り者の後輩と入れ替わって、一人の男子が教室に入って来た。 彼はさっき、一階の踊り場で戦った美少年だ。彼はぼくに近づいてきたので、先にあいさつしておくことにした。 「いや、見事な作戦勝ちだね。それにきみ、結構強かったよ」 「それはどうも。でも最後は、センパイに負けてしまいましたから」 褒めてやったというのに、美少年はちっとも嬉しそうではなかった。結果に納得いっていないという表情だった。 その言動からして、彼はかなりの負けず嫌いと見た。 「訓練に勝ち負けはないよ。 それにきみはスパイ側じゃないか。本来は見つからないで、ことを済ます方がスマートというものだ」 「……」 美少年はその端正な顔に、ますます悔しさをにじませた。肩の震えからして、明らかに何かの怒りを隠しているように見える。 やはり訓練であっても、ぼくが彼に攻撃したことが気に食わなかったのだろうか? 「殴ったり、首をしめたりして悪かった。怒ってるか?」 「子どもじゃあるまい。そんなことじゃ怒りませんよ」 「じゃあ何に怒ってる? 隠してないで、言ってくれ」 ぼくは若干イライラした口調で言った。 「センパイの結果ですよ」 「は? ぼくの負けなんだから、きみたちの勝ちでいいじゃないか。それの何が問題なんだ?」 「あんなカンタンなお色気作戦(ハニー・トラップ)に引っかかるなんて……センパイ、人間として最低ですよ」 美少年はぼくを見下した目で見て言った。
/243ページ

最初のコメントを投稿しよう!

298人が本棚に入れています
本棚に追加