1 学生スパイがいる世界

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さてぼくは掃除を一旦中断することを許され、秘書さんに案内され小さな会議室に通された。 会議室とはいってもそこは真っ暗で、タブレットとコンピュータが一台ずつ、ぽつんと置いてあるだけだった。 「ミスター・ボイス。エージェント・ソウをお連れいたしました」 『わかった。ソウ、腰かけたまえ』 ノートパソコンから、低いダンディーな男の人の声がした。 この声の主こそが、ぼくたちビッグ・スマイルの上司にあたる『ミスター・ボイス』である。もちろん本名であるはずもなく、このミスター・ボイスが何者なのかは誰も知らない。 というより動画にすら映っていないのだから、どんな人物か知りようがない。 ぼくたちビッグ・スマイル所属の学生スパイは、ただこの人の指令に従うことだけが求められる。 「失礼します」 ぼくは丁寧に声をかけ、ゆったりとした事務イスに座った。それから机のタブレットを手にして、自分のIDコードを打ちこむ。 画面に「ようこそ、エージェント・ソウ」の文字が出ると、ぼくは静かにうなずいた。 「準備、完了しました」 『よし、ではきみの任務について話そう』 咳ばらいした後、ミスター・ボイスは話を切り出した。 『まずは何も言わず、この画像を見てくれ。こいつは何だと思う?』 ぼくのタブレットに映されたのは、一枚の写真――まず目につくのは、数本の巨大ミサイル。さらに巨大な機器がところ狭(せま)しと並び、大勢の人が何か作業をしている。 おだやかな風景では、ないように見えるが。
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