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さてぼくは掃除を一旦中断することを許され、秘書さんに案内され小さな会議室に通された。
会議室とはいってもそこは真っ暗で、タブレットとコンピュータが一台ずつ、ぽつんと置いてあるだけだった。
「ミスター・ボイス。エージェント・ソウをお連れいたしました」
『わかった。ソウ、腰かけたまえ』
ノートパソコンから、低いダンディーな男の人の声がした。
この声の主こそが、ぼくたちビッグ・スマイルの上司にあたる『ミスター・ボイス』である。もちろん本名であるはずもなく、このミスター・ボイスが何者なのかは誰も知らない。
というより動画にすら映っていないのだから、どんな人物か知りようがない。
ぼくたちビッグ・スマイル所属の学生スパイは、ただこの人の指令に従うことだけが求められる。
「失礼します」
ぼくは丁寧に声をかけ、ゆったりとした事務イスに座った。それから机のタブレットを手にして、自分のIDコードを打ちこむ。
画面に「ようこそ、エージェント・ソウ」の文字が出ると、ぼくは静かにうなずいた。
「準備、完了しました」
『よし、ではきみの任務について話そう』
咳ばらいした後、ミスター・ボイスは話を切り出した。
『まずは何も言わず、この画像を見てくれ。こいつは何だと思う?』
ぼくのタブレットに映されたのは、一枚の写真――まず目につくのは、数本の巨大ミサイル。さらに巨大な機器がところ狭(せま)しと並び、大勢の人が何か作業をしている。
おだやかな風景では、ないように見えるが。
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