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「逃げたぞ、二階だ!」
夜の校舎を警備していた学生たちが、声をあげてぼくを捕まえようとする。
「逃がさん!」
がっしりした男子が一人、廊下でぼくの行方をふさぐ。しかしぼくは、彼のまたをスライディングしてくぐり抜けることでかわした。
「向こうだ、追え!」
さらに四方から飛んでくる机やイスをよけ、ぼくは階段を転げるように降りた。
「させるか!」
踊り場で傘を持った学生と鉢合わせになり、ぼくはとっさに麻酔シャーペンを取り出す――
「ぬん!」
男子はぼくの左手を傘で叩き、麻酔シャーペンをはたき落とした。さらに傘を振り回しぼくを攻撃してくる。
ぼくは一旦距離を取り、その男子をにらむ。小柄で端正な顔立ちをした、男のぼくから見てもかわいらしい美少年である。しかしその吸いこまれそうな瞳は殺気だっており、ビニル傘の鋭い先端がぼくにはっきりと突きつけられていた。
「いたぞ、一階階段踊り場!」
上から大勢の足音が迫ってきているのがわかる。その反響具合からして、七人か八人くらいだ。数で押されたら確実に負ける。
ぼくは傘をかわしながら、脱出の機会をうかがう。
「覚悟!」
そこだ、と言わんばかりに美少年が傘を大きく振り上げた。その瞬間を狙い、ぼくはガラ空きになった彼の腹部を前蹴りした。
「がはっ?!」
さらに続けて、ぼくは美少年のほおにパンチを食らわす。彼がリノリウムの床に倒れるのと同時に、数人の生徒がぼくを取り押さえようとすぐそこの階段を降りてきた。
ぼくはとっさに落とした麻酔シャーペンを拾い上げ、一番前の生徒に投げつける。一番前の生徒が悲鳴をあげながら倒れると、彼に引っかかって後続の生徒たちも階段を転げ落ちた。
ぼくは山積みになった彼らを見下ろしながら、かっこよくため息をついた。
「悪いな、諸君。今回ばかりは、捕まるわけにもいかないんでね」
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