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甘辛ソースの味が口の中へ広がっていく。
テリヤキバーガーは好物だった。ライトブラウンの円形テーブルをはさんだ向かい側では、彼女が小さい口でちょこちょことフィッシュバーガーを食べていた。
彼女が言うには、僕の、そして彼女の行きつけのお店らしいこのハンバーガーショップ。店内を見回してみるが、記憶に引っかかるようなものは何もなかった。唯一あるとすれば、このテリヤキが好物だということだけ。
「千陽くんは、いっつもそのハンバーガーを食べていましたよ。私はこのフィッシュバーガーがお気に入りでしたが。こうして差し向かいで仲良く食べていましたね」
「仲良くって。僕と君はどういう関係だったの?」
彼女はハンバーガーをトレイの上に置くと、細長いコップに入った紅茶を一口飲んだ。
「それは秘密です。自分で思い出してください」
「思い出してって言われても…うーん、友達?」
「いいえ」
「同僚?」
「いいえ」
「じゃあ――」
次の質問をしようとする僕を彼女はきっと睨みつけると、僕の言葉を遮ってまくしたてる。
「ダメです。自分で思い出さないとこの旅の意味がないんですから。だいたい、相手が誰かも覚えていないのに、あなたと私はこういう関係ですよなんて伝えてしっくりくると思いますか?」
「う…そうだね」
その迫力に気圧されてしまって、言葉が出なかった。きれいな人が怒るとこんなにも怖いものか。
「そうです。だから、頑張って思い出してください、千陽くん」
そんな言い方――口をついで出かかった言葉を急いで飲み込んだ。彼女が僕のことをいろいろ知っているのに、僕は名前すら知らない。不機嫌になるのも当然だ。
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