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("癒し"か。)
戦闘系の特殊能力じゃなくてよかったと、私は秘かに息をついた。正直運動神経は100m全力疾走するだけで足が絡んで転んでしまうほど悪いし、狩りをするのは動物が好きな自分としては現場を見るどころか参加するなんてお断りしたいところだ。
「街へ向かっているときはな、近くに人がいたからアヤが迷い子だなんて口にできなかったんだよ。」
「だから『帰るときな』なんて言って教えてくれなかったんだ。」
「アヤが迷い子だなんて知られたら、きっとこの領地の領主に…または国の国王…いや、たぶんこの帝国の皇帝にその身を捕獲されて一生帝国のために尽くさなければならなくなるだろうから。」
だからアヤも自分が迷い子だということは決して口外しないように。そう念を押された。
(迷い子ってそんな危険な立場に立たされてるのか…。)
思えば、特殊能力が神から与えられるとか、ここにはない知識を持っているとかプラスの面ばかりに着目していたけれど、確かに私がこの帝国の皇帝だとしてもそんな人が数十年に一度出没したりしたら何としてでも手元に置いて帝国を発展させるために利用させてもらうだろう。
「じゃあ、"癒す"力は周りの目もあるし、あまり使えないの?」
「そうだな。……って言っても、アヤは使いたいだろ?」
熊さんはそう言って苦笑いした。
流石、人をよく見ている系男子。わかっているね。
「うん。」
「だよな。…まぁ、この世界にも"ヒーラー"という術師がいてな。その人たちは魔法で怪我などの治療をするんだ。」
「じゃあ私もその人たちの真似をしてバレないように癒せばいいのか。」
「そういうこと。真似をするにはそれっぽく呪文とか色々覚えてもらうことがあるから覚悟しろよ。」
「そのくらい任せて!」
記憶力には自信がないが、自分の力を思う存分使いこなせるようになるためだったら何としてでも覚えたい。
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