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「そうと決まれば早く家に帰らなくちゃな。そろそろ辺りも暗くなってきたし、走るぞ。アヤなら速度は出ないかもしれないが、疲れはしないだろ?」
「熊さんが普通に走ったらきっと速いだろうけど、置いてかないでね。ここ森で周り木しかないから本気で迷子になる。」
「アヤの速度に合わせるさ。」
「絶対だからね!」
そう約束すると、軽くジョギング程度に地面を蹴った。熊さんはそれを見ながらゆっくりと加速する。
疲れない。足が軽い。少しピッチを上げていく。横にぴったりとくっついて速歩きする彼も軽く走る体制に入った。
まだいける。さらに加速してみる。全速力で走っても足がもつれない。走るのが楽しい。息切れしない。周りの景色がどんどんと過ぎ去っていく。
熊さんもスピードを上げてぴったりとくっついてくる。彼はまだまだ余裕の表情だ。
「これは鍛えさえすればかなり速く走れるようになるぞ。」
熊さんは楽しそうにそう言った。私はちゃんと前を見ていないとぐねぐねと曲がって凸凹と木の根っこが飛び出している山道を転んでしまいそうなので、横は向かずに正面だけに集中して走った。
走りはじめて20分。周りの木々は相変わらず変わらないが、見覚えある景色になってきた。朝に散歩した道だ。
「もうすぐだな。」
「こんなに早くつくとは思っても見なかった!」
「山を降りたときとは大違いだな。」
「これなら毎日でも街へ行くことができるね!」
「その時は俺も連れてけよ?たまに山賊とか出るからな。」
「えっ!?」
山賊と聞いて驚いた私は危うく転びそうになった。
「おい大丈夫か?」
「うん、ここらへんそんなの出るんだってちょっとビックリしただけ。」
「昔はそんなところでもなかったんだけどな、前の戦争で負けて傘下に入ったやつらが多く失業してな。山賊が増えているんだ。」
「戦争あったんだ。」
見る限り平和そうだったので、戦争がついこの間まであったとは思いもよらなかった。
「10年前にな。…さ、ついたぞ。」
熊さんは両手に抱えた荷物を降ろし、家の鍵を開けた。
熊さんは現在25歳だから、当時は15歳か。15歳だったから戦争には駆り出されることはなかったと思う。だが、両親はどうだったのだろうか。この家には誰も他に住んでいないし…もしかしたら…。
「アヤ、入らないのか?」
「あ、今いく!」
今はそのことは考えないでおこう。いつか熊さんが自分から言ってくれるまで。
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